岩泉誠太郎の結婚

夢の同棲生活

 岩泉君と同居することになった。

「時間を置いたら絶対余計なこと考えて、白紙に戻したくなるでしょ?」

 坂井君にそう言われ、引っ越しを翌日に強行することが決定してしまう。

 彼の言ったことは正しく、その後何度も自分の大胆な提案を後悔したが、とにかく時間がなさ過ぎて、ウダウダ考える暇などない。

 まずは自宅に戻り、両親に全てを話すことにした。下手に体裁を整えようとすれば、逆に不信感を与えてしまいそうだったから。驚かせてはしまったがどうにか納得してもらい、次は当面必要になるものを運び出すための準備に取りかかる。

 明日は岩泉君が挨拶にやってきて、そのまま彼の家へ荷物ごと移動する予定だ。

「椿?岩泉さんが来るんじゃないの?準備しないで大丈夫?」

 母に起こされたのは、午前9時前。出張の疲れとここ数日続いた睡眠不足で、昨夜は荷造りの途中で爆睡し始めてしまったらしい。

 私、一昨日もお風呂入ってない。いや、最後にシャワー浴びたのクウェートじゃない?昨日の時点で相当やばかった気がする‥‥というか確実にやばい。

 とにかくシャワーは浴びないと!あとは‥‥もう適当でいいや!

 さっとシャワーを浴び、それっぽいワンピースをかぶる。気持ち程度に化粧を済ませて、髪は‥‥勝手に乾くだろう。

 思いつくまま残りの荷物を段ボールに放り込んでる途中で、玄関のチャイムが鳴った。

 ‥‥ぎ、ぎりぎりセーフだろう。

 階段を駆け降り、岩泉君を出迎えるため玄関へと向かった。そこでようやく自分が素足なことに気付く。ほぼすっぴんだし、当然頭はボサボサ。部屋もぐちゃぐちゃ。完全にアウトだ。

 私と違っていつも通りにキラキラしい岩泉君は、スマートに両親への挨拶を済ませると、私のぐちゃぐちゃな部屋から荷物を運び出すのを手伝ってくれた。

 わざわざ同居なんてしなくても、隠すことなんてもう何もない気がする。

「お前、本当に大丈夫なのか?」

 私のあまりの惨状に、父が心底不安そうにしている。

「岩泉さんに迷惑をかけないようにするのよ?少しはちゃんとしないと、本当にすぐ追い出されちゃうわよ?」

 母が追い打ちをかけてくる。

「お義父さんお義母さん、ご安心下さい。僕は椿さんを愛してますから、絶対幸せにしてみせます」

 岩泉君にとどめを刺された。

 こうして私は心身ともにぼろぼろ状態で、住み慣れた我が家をあとにしたのだった。
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