岩泉誠太郎の結婚
 休憩後も岩泉君に周りをうろつかれ、しょうがなく適当なところで荷ほどきを終わらせる。

 夕飯は私の歓迎会をしようと言って、岩泉君が出前のお寿司を用意してくれていた。

 美味しいお寿司と口当たりのいい日本酒、そして目の前には絶世の美男子‥‥ここは天国?ふわふわでいい気持ちだ。お酒のせいかな?

「俺と安田さんは、恋人‥‥でいいんだよね?」

 私が岩泉君の恋人‥‥嘘みたいだけど、嘘じゃない。ふふ。嬉しい。

「はあ‥‥何それ‥‥かわい過ぎる‥‥‥‥名前、椿って呼んでもいい?」

「ん?いいですよ?」

 だって恋人だし。

「椿は?俺のこと、名前で呼んでくれる?」

 それは少し恥ずかしい。でも恋人だしな‥‥

「‥‥‥‥誠太郎君」

「恋人なら、敬語で話すのもおかしいよね?」

「そうですか?うーん‥‥そうかも?」

「昨日、啓介とは普通に話してたでしょ?椿は俺の恋人なのに、二人が仲良さそうに話してるから、嫉妬で気が狂いそうになった」

「ごめんなさい‥‥」

「俺は椿の恋人だから、キス‥‥してもいい?」

 私と坂井君は友達になって8年も経ってるんだから、仲がいいのは当たり前だ。なのにこんな罪悪感を煽るような言い方をしてキスをねだるなんて、なんかずるい。

 ‥‥ずるいけど、迫りくる岩泉君の唇があまりにも魅力的で‥‥罪悪感とか関係なく‥‥どうしようもなく引き寄せられる。

「椿‥‥‥‥?」

 岩泉君の唇が、お互いの吐息を感じられる程の距離で止まって、私からの許可を待ちわびている。

 岩泉君は私の恋人だし‥‥抗う必要なんてあるのかな?‥‥多分ないよね?

 ほんの少し緊張を緩め、唇の距離を縮める。

 それを合図だと正確に捉えた彼が、そっと唇を重ねてくる。触れるだけの、優しいキス。

「夢を見てるみたいだ‥‥」

 唇が重なる距離のまま、岩泉君が吐息を漏らすかのように呟いた。

「椿‥‥好きだよ」

 気持ちを確認するように、キスが優しく繰り返される。そのキスも言葉も甘過ぎて、徐々に理性が溶けていく‥‥

「岩泉君‥‥好き‥‥私も‥‥大好き」

 一瞬離れた唇が、次の瞬間、激しさを伴って再び重ねられた。同時に背中へと回った腕にきつくきつく抱きしめられ、重ねるだけだったキスが深さを増していく。

 苦しければ苦しいほど、想いの強さを感じられる気がして、もっともっと欲しくなる。

「椿の全部を俺のものにしたい‥‥」

 面倒なことなんてもう考えたくない。今はただひたすら、岩泉君を感じていたい。
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