岩泉誠太郎の結婚
 その後の岩泉君は凄まじい程に饒舌だった。

 でも、学生の頃から私達に接点なんてほぼないに等しかったはずで、岩泉君が私のことを好きだなんて話を聞かされても、理解できないし信じることもできない。

 戸惑う私に追い打ちをかけるように、岩泉君は私のどんなところが好きなのかを語り始めてしまった。

 こんな私でも高校の時に同級生の男の子とお付き合いしたことがある。告白されてなんとなく付き合い始め、年相応の経験をしてそれなりに盛り上がった気もするが、大学受験でお互い余裕がなくなりお別れした。

 今思うと、元々友人として仲良くしていた彼のことを、私はそれほど好きではなかったかもしれない。キスやそれ以上のことをして、その行為自体はドキドキしたが、それは私にとって必要不可欠なものではなかったように思う。私はただ、穏やかで居心地が良いと感じる彼と過ごす時間が好きだった。

 友人としての彼と恋人としての彼の違いは、そういうことをするかしないかだけだった。それ以外は以前となんら変わらない。彼が私をどう思っていたのか、確かめることすらしなかった。

 何が言いたいかというと‥‥『好き』とか『かわいい』とか言われたことがなさ過ぎて、頭の中が真っ白になってしまったのだ。

 その後、岩泉君は私を部屋の前まで送ってくれた。すぐにシャワーを浴びてベッドに潜る。

「え?何?どういうこと?」

 あの岩泉君が私のことを好き?8年て、1年の時から?なんで?てか、卒業してから会うことすらなかったよね?は?なんで?ありえなくない?

 スマホを手に取り時計を見ると10時を過ぎたばかり。時差は6時間。日本は日曜の朝4時だ。少しばかり悩んでコールボタンをタップした。

「もしもし?坂井君?」

『‥‥?‥‥椿ちゃん?』

 電話で無理矢理起こされた坂井君は完全に寝ぼけているようだが、構わず話を進める。

「岩泉君がなんかおかしなことを言い始めたんだけど」

『ん?誠太郎?』

「岩泉君の好きな人って‥‥あの‥‥」

『あー誠太郎‥‥告白できたんだ‥‥』

「坂井君‥‥これ‥‥どういうこと?意味わかんないんだけど‥‥」

『んー?誠太郎‥‥ずっと‥‥椿ちゃんが‥‥大好きで‥‥‥‥』

「え?ちょっと、坂井君?もしもし?寝ちゃった?起きて!?」

『あ?えーと‥‥誠太郎は椿ちゃんを愛しちゃってるんだよ‥‥‥‥』

 どうやら坂井君はそのまま寝てしまったようで、聞きたかったことが聞けたのか聞けなかったのか、よくわからないまま通話を終えた。
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