悪役公爵の養女になったけど、可哀想なパパの闇墜ちを回避して幸せになってみせる! ~原作で断罪されなかった真の悪役は絶対にゆるさない!

SS、忠臣騎士に感謝の花束を


 シトリ殿下は、私の転生の話をとても面白がってくださった。
 
「前世の記憶ですか。不思議ですね」
 
 水色の瞳がきらきらと輝いている。純粋な好奇心に満ちた表情だ。
 
「前世の記憶というのは、どのようにしたら蘇るのでしょうか」
 
 殿下はそう問いかけてから、いたずらっぽく笑った。
 
「僕も馬車にひかれかけてみようかな」
「だ、殿下! 危険ですからそれはやめてください!」
 
 とんでもないことをおっしゃる!
 私が慌てて止めると、殿下はくすくすと笑って立ち上がった。
 
「冗談ですよ、ロザリット嬢。あなたが心配してくださって嬉しいです」
 
 そう言って、殿下は帰って行かれた。
 ……大丈夫かな? 本当に馬車にひかれかけたりしないよね? 
 
「ロザリット」
 
 パパの低い声が聞こえて、振り返る。
 パパは――なんとも言えない、嫌そうな顔をしていた。視線の先は、私の指。正確には、シトリ殿下がはめてくださった婚約指輪だ。
 
「パパ?」
「その指輪を外さないか?」
 
 パパの声は、とても真剣だった。
 
「パパが、指輪を贈る。だからその指輪を外してくれないか。ね? ロザリット?」
「パ、パパ……」
 
 パパの目が本気だ。本気で王子を嫌がっている……。
 
「王子なんて。まだ若造じゃないか。ロザリットを守れるのか? 幸せにできるのか? パパは不安で不安でたまらないんだ」
「パパ、落ち着いて……」
「落ち着いてなんかいられるか! わが娘が……わが娘が……国家転覆しよう」
 
 パパは両手で顔を覆って、肩を震わせた。
 ああ、パパが闇墜ちしちゃう……。
 
「パパ、大丈夫。私は幸せだから」
 
 優しく言うと、パパはゆっくりと顔を上げた。目が潤んでいる。
 
「……そうか。ロザリットが幸せなら、パパも……」
 
 そこまで言って、パパは深呼吸をした。そして、ぱんっと自分の頬を叩く。
 
「よし! 気を取り直そう! 今日はこれから、大切な場所に行くんだ」
「う、うん。そんな予定があったね」
 
 そう言って、パパは花束を手に取った。
 白い花と青い花が美しく束ねられている。
 
「ロザリット、馬車に乗ろう」
 
 パパは手を差し出してくれた。
 私はその手を取って、一緒に馬車に乗り込んだ。
 
 向かう先は、墓地。
 そこには、私を守って命を落とした騎士の墓がある。
 あの方がいなければ、私は今、ここにいない。
 
 馬車は静かに進み――やがて、小さな墓地が見えてきた。
 
 丘の上にある、静かな場所だ。木々が優しく揺れている。
 
 馬車を降り、パパと一緒に歩みを進めると、彼の墓石があった。
 
『忠臣騎士ライデル ここに眠る』
 
 パパは、膝をついた。
 そして、花束を墓石の前に置いた。
 
「ライデル。君のおかげで、ロザリットは生きている」
 
 パパの声が震えている。
 
「君が命をかけて守ってくれた娘は、こんなにも立派に育った」
 
 私も、膝をついた。
 そして、手を合わせた。

 風が吹いて、花束の花びらが揺れる。
 
 鳥のさえずりと虫の鳴き声が涼やかで、静かな感じがした。

「――ありがとう」

 感謝の言葉を父娘一緒に手向けると、木々が優しく揺れる。
 はらりと落ちた枯れ葉は淡い色彩を木漏れ日に照らされて、なんだかとても綺麗だった。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆

SSを読んでくださり、ありがとうございます!

11月5日には別作品『桜の嫁入り』が一二三書房文庫から発売予定です。
(https://hifumi.co.jp/lineup/9784824205322/)
もしよければ、そちらの作品も楽しんでくださると、とても嬉しいです。

読者の皆さまが楽しんでくださるおかげで、作者は活力をいただいています。
本当にありがとうございます。
今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます!
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