君にサヨナラを

違和感

「いちについて、よーい…」

-パン!-

あの祭りから1ヶ月と少しがたった。

あの日が終わってからは凛と翔は願書の提出などでバタバタしていた。

そんなことをしていたらあっという間に10月も終わりだ。

そして、現在。

俺たちは体育祭の真っ最中。

俺のクラスの奴らは元気に応援中だ。

俺はと言うと、後ろの方から見守っていた。

「ゆーくん!次の男女混合リレーに私出るから応援してね!」

凛がルンルンでやってきた。

いや、別クラスだよ。俺ら。

でも…

「わかった。」

今の俺なら他クラスの彼女をお応援しても、

誰にも怒られることはない。

「りーん!リレー行くよ〜!」

「はーい!行ってくるね!ゆーくん!」

「おう、行ってらっしゃい!」

俺は、凛をお応援するため翔と竜のそばへ行った。

「なぁ、翔。俺、凛ちゃん応援しちゃダメ?」

竜が小声で問いかけているのが聞こえた。

「ダメ。クラス違うだろ?するなら心の中でしときな。」

「えー。分かりましたー。あーぁ、同じクラスだったらなぁ。応援できたのにさ。」

「文句を言わない。ほら始まるよ。」

はいはい、と竜は不服そうにクラスの応援を始めた。

こう見ると俺の方が得なのかもしれない。

まぁ、こういうとき限定だけどな。

誰にもきづかれず、怒られることも無く他クラスの

可愛い彼女を応援できる。

「凛!頑張れよ!」

だから、俺は大声でエールを送った。

凛はこちらを向きニッコリと微笑み手を振ってきた。

だから俺も全力で手を振り返した。

そして、何故か竜も手を振っていたようで翔に

多分お前じゃないよ。とつっこまれていた。

「分かってるよ。優真だろ?でも、こうやって振らないと凛ちゃんが変な目で見られちまう。」

竜は悲しそうな顔でそう呟いた。

「そうだね。ほら、凛ちゃんの番だよ。」

そう言い翔はリレーの方を指さした。

この時点で凛のクラスは最下位だった。

4番手の子が2位と3位の子に抜かされてしまったからだ。

そして、5番手が凛。アンカーは雨乃。

この絶望的な状況に凛のクラスの奴らは諦めモードだった。

けど、俺は逆転出来ると思っていた。

だって凛は…。

「現在最下位の赤組!今バトンが渡されました!頑張れ赤組……って早い!?どんどん抜かしていきます!なんと、2位です!!」

足が超速いから。

凛は運動部だったというわけではないが、

何故かかなり足が速い。

その結果、抜かしまくって2位で雨乃にバトンタッチだ。

雨乃は元陸上部ということもあり凛より早い。

そして、雨乃が俺らのクラスのやつを抜き1位でゴール。

まさか1位を取れると思っていなかったのか、凛のクラスの奴らはかなり驚いていたが大喜びだ。

「ゆーくん!」

「凛。お疲れ様。すごかったよ。」

頭をヨシヨシと撫でると嬉しそうに目を細めた。

「凛ちゃーん!お疲れ様!超絶かっこよかったぜ!」

「ありがと!竜くん!」

そんな俺たちの横では、

「絢音。おつかれ。最高だったよ。」

「翔〜ありがとう♡大好き♡」

と、ハグしあってイチャついているやつがいた。

「おい。イチャイチャしてんじゃねーぞ、コラ。」

「羨ましい?竜くんも凛とすればいいじゃん。」

拗ねる竜が面白いのか雨乃はニヤニヤしながらからかっていた。

「な!?バカやろ!!出来るわけねぇだろ!」

「だよね〜。」

「てめぇ…!」

キャハハと楽しそうな雨乃とは反対に顔を真っ赤にし怒る竜。

そして、凛を見るとなんだか不安そうな顔をしていた。

「凛?どうかしたか?」

「ううん!なんでもないよ!」

「?ならいいけど。」

そういい見つめていると凛がぽつりと呟いた。

「ねぇ、ゆーくん。いつまでも5人で入れるよね?1人欠けるとかないよね?」

俺はドキッとしたが、

「あぁ大丈夫だよ。」

と冷静を装って答えた。

これも嘘だ。

そのうち4人になる。

「そうだよね!ごめんね、変なこと言って。」

凛は苦笑いした。

そんな話をしていると絢音が戻るよと凛を呼びに来た。

この後、俺たちは各自のテントへ戻り応援を再開した。

体育祭はまだもう少しあるというのに、

俺は凛のことで頭がいっぱいだった。

何故なら凛が変だからだ。

最近やたらと俺がずっと居るのかどうかを確認してくる。

ゆーくんは私の前から消えないよね?

ゆーくん、ずっと一緒に居てくれる?

こうして手を繋いで歩いているとちゃんと居てくれるって思って安心する。

そんなことを言ってきたかと思えば、

ねぇ、ゆーくん。ゆーくんはさ、死なないよね?

ゆーくん、何か隠してないよね?

ゆーくん、嘘ついてないよね?

と詰められる。

さすがに隠してないか、嘘ついてないかと聞かれた時は焦った。

が、俺は冷静を装って、ずっと一緒だよとか大丈夫とか隠してないと大嘘を重ねた。

最低だと分かっていても臆病な俺は凛とサヨナラするのが怖くてホントのことを言い出せない。

そして、なぜ凛は突然そんなことを言い始めたのか。

俺は考える度不安に襲われた。

もし、凛がなにかに気づき始めているなら

それは終わりへのカウントダウンの始まりだ。

そんなことをずっと考え、暗い気持ちになっていると、

突然頭上から声がした。

「ゆーくん、どうしたの?暗い顔して。ほら、並ぼ!」

「へ?並ぶ?なんで?」

「え?今から閉会式だから列に並ぶんだよ?大丈夫?」

そう言われ前を見ると、生徒たちがゾロゾロと真ん中に集合しだしていた。

「あ、そっか。そうだな。悪ぃ。行こうぜ。」

種目が全て終わったことにすら気づかないほど、

俺は考え込んでいたらしい。

俺はみんなの邪魔にならないように1番後ろに並んだ。

まぁ、なりはしないんだけどな。

「では、閉会式を始めます。」

長い長い先生たちの話しが始まった。

そういや、体育祭の開会式と閉会式は話長ぇから

聞きたくなくて凛と小声でおしゃべりして

担任に怒られたな。

俺たちが興味示すのなんて順位発表の時だけだ。

あとは寝てるか、遊んでるかで皆聞いちゃいない。

戻りたい。

そして、もう一度やり直したい。

「ーー以上校長先生のお言葉でした。では、次に表象式に移りたいと思います。」

待ってましたと言わんばかりに歓声が上がった。

6色あるが表彰されるのは3位からだ。

「3位…オレンジ組!代表 秋野 涼。前へ。」

「はい!」

いかにも運動部です!って感じのやつが前に出た。

「2位……青組。代表 野崎 竜。前へ」

「うっす!」

俺らのクラスは竜が代表だったのか。

竜は嬉しそうに前へでた。

「1位……赤組。代表 花咲 凛。前へ。 」

「はい!」

生徒たちから盛大な拍手を受けながら前へ向かった。

おめでとう、凛。

3人それぞれ表彰状をもらい列に戻った。

「えーでは、これをもちまして体育祭を終了致します。皆さん速やかに教室へ戻ってください。」

生徒たちはゾロゾロと教室へ戻りだした。

教室へ戻ると担任が明日の説明を始めた。

「今日はお疲れ様でした。明日は文化祭1日目です。その文化祭ですが……。」

文化祭か。

1、2年の時は凛と一緒に回ったんだよな。

2日とも馬鹿みたいにはしゃぎまくったな。

1年のときは出しもはせず、何人かのクラスメイトがダンスで舞台に立ってたっけ?

凛と凄いって笑いあってたな。

2年はジュース屋さんしたっけ?

凛と2人で客寄せ係やったな。

んで、午後からは他のクラスのとこ行ってすげぇ食ってた覚えがある。

今年はどうなんのかな。

なーんてボーッと考えていたら、いつの間にか担任の話は終わっていた。

「とういう流れですのでよろしくお願いします。
では、また明日。」

やべ、肝心なとこ聞いてなかったかも。

まぁ、隣のクラスと一緒だろうし凛に聞くか。

俺は竜たちの後について教室を出た。

「おつかれ様。絢音、文化祭2日とも一緒に回るよね?」

「もちろん」

「わかった。最後の文化祭楽しもうね。」

前を歩く2人はとても幸せそうだった。

凛は、凛はどうするのだろうか?

俺と回ってくれるのだろうか?

少し不安になり凛に声をかけようとしたが、

竜に遮られてしまった。

「凛ちゃんは、誰かと回る予定ある?」

「え?うん!もちろんゆーくんだよ!」

「あー。だよな!」

竜はしょんぼりとしていた。

「ねぇ、ゆーくん。明日と明後日楽しもうね!」

「あぁ。」

俺はその言葉を聞きホッとした。

と、同時に竜への申し訳ない気持ちもあった。

ごめん。竜。

もう少し、あと少しだけ凛と居させてくれ。

俺たちは明日はどう回るなどワイワイと話しながら帰宅した。

俺も明日は楽しもう。
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