辺境伯様と白い結婚~敵国の王女のはずが旦那様の甘やかしが止まりません~


 「……デボンの森で、私がロザリアを連れて来ていれば――」

 「それは連れて来なくて正解だったのだ」

 「なぜです?」

 「……もしそなたが彼女を連れ去っていれば、リンデンバーグと本格的な大きな戦争になっていた事だろう」


 私は陛下の仰る意味が分からず黙ったまま、陛下の言葉を待った。


 「……例えどんな外道だとしてもあの子にとっては、リンデンバーグの国王は父親なのだ。母親の母国と父親の国が、自分のせいで戦争などと……そんなものを背負わせてはいけないと私は判断した。その為に多くの民の血が流れたとして…………あの子が自分の身が助かって喜ぶとは到底思えん……」

 「…………………………っ」


 私は目を伏せ、考えた…………そうだ、彼女はそういう人間だ。私は陛下の思慮深さに敬服した。


 「……陛下が争いを避けていたのは、全てロザリアの為だったのですね…………」

 「それもあるが、ベラからの遺言でもある。我が国の密偵がリンデンバーグに潜入し、ベラの元に行くともう息も絶え絶えの状態だった。最後の力を振り絞って、これ以上戦いで不幸な人間を増やさないでほしいと……言伝があった。私はそれを守りたかった。彼女を守ってあげられなかったからな…………リンデンバーグと我が国との戦で、ベラは体だけでなく、心も疲弊してしまったのだと理解した時にはもう遅かったのだ……」

 「陛下…………ロザリアと私の結婚を許可したのは、なぜですか?」

 「そなたほど相応しい者はいないと思ったからだ。ベルンシュタットにいればロザリアは守られるであろうと思ったし、そなたは誠実な男だからな」
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