制服レモネード
その顔があんまりにも嬉しそうで無邪気で、お世辞や気遣いから出た言葉じゃないって伝わって、

なんだか恥ずかしくなって、顔を一瞬だけ車のフロントガラスに向ける。

「ちょっと子供っぽいかなって思ったんですけど。日頃の感謝と、今日のお礼も含めて」

「全然!めちゃくちゃセンスいいって。やばい。かなり嬉しい。お礼なんて……何もしてないのに、俺」

「してます!してもらってばっかで、申し訳ないっていうかっ」

「こちらこそ、今日俺と行きたいって言ってくれてありがとう。いい思い出ができた」

矢吹さんはそう言いながら、ジャケットを脱いで私の背中へとそれを回した。

「せっかく楽しかったんだし、風邪ひかないようにしなよ。帰るまでがデートだから」

矢吹さんは、少し照れ臭そうに鼻を隠してから車のエンジンをかける。

帰るまでがデートって……。

私だけじゃなくて、矢吹さんの中にも、たとえそれが口だけでも、彼の口から『デート』って単語が出たことに、また嬉しくなって好きが溢れる。

「ありがとう、梓葉」

こっちを向いてそう優しく微笑んだり矢吹さんに、

「はいっ」

と小さく返事をして。

私たちは、うちへと向かった。

借りた矢吹さんのジャケットから、矢吹さんの匂いがして、車のスピーカーからは、あのCMソングを歌うミュージシャンの声が流れ出して───。

なんだかぼーっとして気持ちよくなった私は、重くなった瞼をゆっくりと閉じた。
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