制服レモネード
知っていれば、俺だってもうすこし優しくしていた、そんな気持ちがよぎるたんびに、あの頃の俺にそういう同情心がちゃんとあっただろうか、と考える。

常に、自分は世界で一番かわいそうな子供だと、悲劇の主人公だったから。

それに、頑固な祖父と父親のことだ、変に病気のことで同情されて、そこからくる優しさなんて嫌うタイプだと思う。

「前に、梓葉いったよね。両親に愛されてる実感はちゃんとあるって」

「はい……」

「今思えば、俺は両親のことをちゃんと見つめることしてなかったんだなって思うよ。社会人になって、ここに引越してきて梓葉を見かけた時、どこか昔の自分と似ている気がして、でも、話してみたら正反対で」

共働きの両親。梓葉がよく制服姿で一人で買い物袋を持って歩いているのを見かけていた。

親の都合でひとりぼっち、梓葉とはどこか通じるものがあるんじゃないか、そんな幻想を勝手に抱いていた。

「私だって、矢吹さんと同じ状況ならそんな風に思っちゃうかもですよ。矢吹さんのお父さんやおじいさんも頑張ったかもしれないけど、矢吹さんだって頑張ってます」

正反対なのに、こうやって寄り添えるところか、ほんと、大人だと感心する。

「うん。ありがとう」

それだけいうのが精一杯で。
何度言ったって足りない。

梓葉に出会わなかったら知らなかった感情なんてありすぎて。
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