【Amazonベストセラー入りしました】偽花嫁として嫁ぎました。バレたら処刑されるとハラハラしていたらイケメン王が溺愛してくるんですが?

 手のひらは汗でびっしょりと濡れて、口の中はカラカラだ。「感謝します」の次の言葉を言うこともできない。
 ——わたくしはこの国の人たち騙している。ああ、どうしよう! 
 急いで窓から顔を引っ込めて、両手で胸をギュッと押さえた。
 馬車の外から、フウルについてきた従者たちと、ラドリア国の従者たちの会話が聞こえてくる。
「⋯⋯それではわたくしたちはここで失礼いたします」
 ナリスリア国の従者たちはフウルにひとことの挨拶もなく帰っていく——。馬の蹄の音が遠ざかり、だんだんと聞こえなくなった。フウルはひとり残されてしまったのだ。
 どうしよう、これからどうしよう⋯⋯。馬車の中でオロオロとしていると、ミケールの明るい声が聞こえて、馬車の扉がゆっくりと丁寧に開いた。
「では王女さまはこちらの馬車にお乗り換えください」
「え?」
 思わず声を出して驚いたのは、目の前に金色のふかふかの絨毯が引かれていたからだ。地面を踏まないでいいように馬車と馬車の間に絨毯を引いてくれたのだ。
「か、感謝します⋯⋯」
 ——晴れ日のギフトを持つ義妹のヘンリエッタだと思われているんだわ。だからこんなにわたくしに親切にしてくれるんだわ。わたくしは雨降り王女なのに⋯⋯。
 申し訳なさに顔を上げることもできない。急いで馬車を移った。
 ラドリア国が用意してくれた馬車は内部もとても立派だった。金と赤の豪華なベルベットの布が使われていて、ツルツルとした手触りがうっとりするほど優雅だ。
「わたくしなんかのためにこんなに豪華な馬車で迎えに来てくれるなんて⋯⋯。ほんとうにいい人たちなのね。それを騙すなんて⋯⋯」
 動き出した馬車の中で考え悩んでいるときに、ザーッという音が馬車の外から聞こえ始める。
 雨だ——。

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