青春は、数学に染まる。 - Second -

それからどのくらいの時間が経っただろう。
泣き疲れた私たちは、リビングのソファに寝転がったまま寝落ちしていた。

「すみません、寝ていました…」
「ですね。今は…17時ですか…」

先生は寝転がったまま私を抱き締める。



「真帆さん、夕飯食べて帰りませんか?」
「良いのですか。嬉しいです。…というか、今日は帰りたくない」
「えぇ…僕も、帰したくないです。…そうはいきませんが」


どちらからともなく、そっと唇を重ねる。
離れて目を合わせると優しく微笑んでくれた。



守りたい。
裕哉さんのことを守り支えたいと、心の底から思う。


とは言え、私に出来ることなんて限られているけれど。
それがまたもどかしい。





「髪、跳ねています」
「最近よく跳ねるのです」
「この前、立哨の時も跳ねていました」
「それ…僕が準備室で寝落ちしてしまった日の翌日でしょう」
「そうです」
「あの時…辛くて崩れそうで、髪が跳ねているなんて気に留める余裕もありませんでした」


言ってくれたら良かったのに…。
何も知らずにちょっかいを掛けた私たちが馬鹿みたい。



「さて、真帆さん。何が食べたいですか? デリバリーでもしますか? …ピザ屋しか来ませんけれども」
「ふふ。良いですね、ピザ。裕哉さんはピザ好きですか?」
「好きですよ。ピザとかハンバーガーとか、ジャンクな食べ物は好物です」
「意外!!」

都会なら色々なデリバリー会社があるのだろうけれども。
ここは田舎だからなぁ。


うちもデリバリーはピザ屋しか来ない。


先生は手慣れた様子でピザの注文をした。
4種類の味が楽しめるピザに、フライドポテト、炭酸飲料、ティラミスまで。


「今日はカロリー祭りです」
「最高ですね」




ピザが来るまで、私は先生の話を聞き出さそうと決めた。


何を聞こうかな…。



そう考えた時、ふと気付いた。
そもそも…。


私、先生の誕生日…知らなくない?



「…え、待って! そういえば…私、裕哉さんの誕生日知らない…!!」

少し青ざめながら先生の方を向くが、先生は何やら余裕そう。


「僕は真帆さんの誕生日を知っていますよ。個人カード見ました」
「それは職権乱用!」


ということは…去年は先生の誕生日を祝わずに過ごしていたってこと!?


やってしまった。初めて赤点を取った日からかなり会っていたのに…最低だ…。


「真帆さん。お誕生日いつですか?」
「え、私? 5月21日です」
「では、その翌日は?」
「…22日?」
「はい。僕の誕生日です」
「え、うそ!?」


嘘みたいな話。いや、嘘でしょう。私の中の感情が渋滞している。


……え、私の翌日が先生の誕生日って本当?



「先生、本当?」
「本当ですって。そんな嘘をつく必要ありますか」


そう言いながら運転免許証を取り出した。


先生の証明写真可愛いな…という感情はさておき。
生年月日の欄には本当に5月22日と書いてあった。


「本当だ…凄いですね」

私も学生証を取り出す。私の方の生年月日は5月21日。

先生と私、1日違い。


「え…嬉しい」


去年の5月は…初めてのテストで赤点を取ってすぐだったかな。

補習を開始する頃、お互い年を重ねていたのだ。


「ふふ…」


補習が嫌だったあの頃。それを思い出すと、思わず笑いが零れた。


「何を思い出しましたか?」
「あ、いえ…補習が始まった頃のことを思い出しまして」
「伊東先生のことが好きだった頃ですか?」
「あ、また言った!!!!!」

いつまで繰り返すつもりなのだろうか。
もしかして、永遠に言い続けるつもりなのではとまで思えてくる。



クシャっと子供みたいな笑顔を浮かべた先生に思い切り飛びついた。






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