青春は、数学に染まる。 - Second -
第三話 特別な日

悩み


「はい、始めます」
「起立。気を付け、礼。お願いします」
「お願いします」


月曜日の2限目は数学だ。



デートぶりの早川先生。
その表情は“いつも通り”だった。

授業中も辛そうな表情をしていることも多かったが、今日は調子良さそう。



良かった…。
心の底から安心した。






「真帆。顔がにやけていた」
「え、そんなこと」
「そんなことある!!」


授業が終わり、有紗が跳んできた。
有紗はツンツンと私の頬をつつく。


「あのね、有紗。2年生になってから数学の予習をするようになったの。で、今日はその甲斐あって、自分で文章問題が解けたんだよね。人生で初めて」
「えぇ、凄い! めっちゃ成長している!!!」
「でしょう。いつも計算問題だけ解いて文章問題はスルーするんだけど、今日はできたんだぁ」


赤点回避出来るのも時間の問題じゃない?

早川先生に喜んで貰いたい。その一心で、私は数学の勉強に励む。


「愛のパワーかな」
「え」
「早川先生との縁が無かったら、今も数学なんて嫌いでしょ?」
「…」


私の耳元でそう呟く有紗。

まぁ確かに…そうかもしれない。


「有紗も数学ができるようになるんじゃない?」
「え、同好会入ったから?」
「そう。2人は相性が良いと思うの」
「え、待ってどういうこと!?」
「ふふふ」


空気感が似ている浅野先生と有紗。
似た者同士で会話のテンポも良く、勉強効率が良い気がしていた。


「有紗、次は情報だよ」
「あ、移動しなきゃ!!」
「行こう」

急いで教科書を取り出して教室を出る。



「2進数とか10進数とか意味わからなくない?」
「そう? 私は好きだけど」
「え、…数学は出来ないのに情報の数学的な部分は好きなんだ」
「パソコンが好きだからさぁ、それに関連付く数学なら覚えられる」


情報にも確率や確率、ビットやバイトの変換、数値計算などがある。ぱっと見は数学だけど、こっちは解けるんだよね。問題を見ても脳がシャットアウトすることはない。


「真帆も変だね~。早川先生に言っておこう~」
「何で!?」


有紗は楽しそうにキャッキャッと笑う。早川先生に言っちゃダメだよ。

きっと、情報という科目にまで嫉妬し始めるから。




「へぇ…藤原さん、俺に情報教えてよ。苦手なんだよね」
「あ、出た!!!!」
「神崎くん…」


神崎くんは私と有紗の間から顔を出して私の方を向く。


「ねぇ、藤原さん。俺知らなかったんだけど、数学補習同好会っていうところで数学の勉強をしているんだね。浅野から聞いたよ」
「…あ、うん。そう、もう長いよ」
「俺が補習受けた時はもう活動していたってこと?」
「うん…」


面倒くさいな。
率直に、そう思った。


「ちょっと、神崎!! またアンタは…真帆に構わないでくれる!?」
「いつも言っているよね。的場さんには関係無いって」
「なんだとゴラ……」


有紗は握り拳を作って震えている。
神崎くんはそんな有紗に目もくれない。



「まぁ的場さんはいいや。藤原さん。そんな同好会に所属しているから好きになっちゃうんだよ。俺から辞めさせるよう言うからさ。それで…軽音部においでよ」



何で。何で神崎くんにそう言われなきゃいけないのか。

この人も私の意思を無視しようとするの?




「…いや」

「…え?」

「絶対嫌だ。私は同好会を辞めないし、軽音部にも入らない。大体、神崎くんに言われる筋合いは無いよ。だから…勝手なことしないで」


私はそう言い放って、パソコン室に向かって走った。


「あ、真帆!!」




後ろから有紗も追いかけてくる。



神崎くんは驚いた表情のまま、しばらくその場に立ち尽くしていた。






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