陰陽現代事情

第9話 右上位の野望

 1990年8月 東京

 戦後四十年余り続いてきた右肩上がりの経済成長も、ここにきて陰りが見え始めた。バブル経済が続くことによって地価は暴騰し、円高による内外価格差で日本の物価は世界的に見ても異常に高くなってしまった。政府は加熱する需要を抑えようと、公定歩合の引き上げに踏み切った。これが仇となった。景気はみるみる減退し、企業利益も落ち込み、国民の購買意欲も低下した。

「父さん、聞きたい事があるんだけど」
 晴明が父親の益材に尋ねてきた。
「おお、なんだ?」
「父さんたちはよく、右上位、右上位って言ってるけど、そいつらどこにいるんだ?見た事もないし、何か悪さしてるって話も聞いた事がない。そもそも右上位って、今も存在するんか?」
 晴明は不思議そうにしていた。
「何を言うんだ。奴らはれっきとして存在するよ。そして男尊女卑やら滅私奉公やら、時代錯誤なことを言ってやがる」
 益材は強がって言った。
「確かに昔はそうだった。でも今どき、イエ制度とか家父長制度とか、かたくなに守っている家庭など、ないぜ。右上位だって、とっくに絶滅してるはずだよ。姿も形もない奴らを叩いて、一体何の役に立つんだよ!」晴明は、むきになった。
「なにいっ!右上位が絶滅しただと?俺たちが右上位の妄言に手を焼いているというのに。奴らに隙を与えるようなことを言うな!!」
「それじゃあ、右上位が今もいることを、分かるように証明してくれよ」
 晴明が益材に要求した。
「ああ、証明してやる!!奴らをとっつかまえて、連れてきてやる!!」
 益材は晴明に負けじと言った。
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