陰陽現代事情

第10話 二項比較

「ただいま・・・・」
 晴明の父が、全身傷だらけになって、フラフラとした様子で帰ってきた。
「おかえり、って、父さん!どうしたんだよ、その傷!」
 晴明が益材のくたびれた姿を見て、思わず叫んだ。
「右上位と乱闘になったんだよ。奴ら強すぎて・・・・ぐはっ!!」
「父さん本当のことを言ってくれよ。なんでもかんでも右上位のせいにして」
「なあ信じてくれよ。右上位、本当にいるんだよ。奴ら、ここんとこ冬眠していたから見かけなかったけど、今も生き延びてるんだ。間違いないよ。この目で見たんだから」
「また冬眠とか都合のいい言葉で飾るんだから。いいから向こうの部屋で休んでてくれ」

 マスコミによれば、諸外国では、民衆が街に出て盛んに反戦デモを行っているようだ。本来ならば日本でも今頃、街のあちこちで反戦デモが繰り広げられていてもおかしくはないはずである。しかしそんな姿を見かけることはなく、街はひっそりしていた。新聞では、反戦デモの記事の下に、小さな囲み記事で、右上位と左上位による乱闘騒ぎがあったことを報じていた。晴明はその記事で、右上位が実在することをようやく信じる気になった。その一方でこのような時に街に民衆がデモを繰り広げている姿はなく、右上位と左上位が乱闘をしている現実に、やりきれなさを感じていた。
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