婚前どころか、フリですが ~年下御曹司?と秘密の溺甘同居~
4、不可抗力



その日、私はにこやかな上司を前に眉間のしわを隠そうともせず訝しげな顔をしていた。私の隣には翔くんもいる。
この部下思いで基本マイペースな部長は、まず「お疲れさま」と労いの言葉をかけた。にこにこといつもの表情にも見えるが、部長が部長になった頃から彼を知っているとそれが何か言いたいことがあるときの前触れだと勘づいてしまう。それも、あまり嬉しくない話だ。

「さっき会議があったんだけどね」

部長はなおも穏やかな表情で続ける。

「今度、ベリが丘のアッパー層を集めた大規模なパーティーを催すらしいんだ。目的は、街の中核を担う企業や家業どうしの結束を深めて、より良い街を作っていこう、みたいな感じ」

なるほど。これはまた面倒…じゃなくて、大変なイベントを開催するものだ。

「一応、街全体を統べる立場にあるツインタワーのオフィスからは各部署数人ずつを参加させたいと。 で、特にうちは広報だから、ベリが丘の究極が集まる場を街のアピールに使わない手はない、とのことでしっかり仕事なわけね。 そこでだ。一色と夏樹、大抜擢だよ」
「私ですか…」
「いやほら、うちの面子的にさ、こういうパーティーとかは、実家絡みで忙しい人が多いんだよね。 矢野も旦那と参加させられるって嘆いてたし。 その点一色は心配いらないだろ?」
「まあ…そうですね…」

< 62 / 130 >

この作品をシェア

pagetop