余命2年の初恋泥棒聖女は、同い年になった年下勇者に溺愛される。
「この慰問の旅は貴様らにとってみれば謂わば(みそぎ)。精々励むが良い」

「格別なるお慈悲、心より感謝申し上げます。このエレノアを始め、ウィリアム、レイモンド共々誠心誠意励んでまいります」

「結構。下がって良いぞ」

 エレノアは白いカソックの裾を摘まんでカーテシーをした。対する王は玉座にふんぞり返るようにして腰かけ、太い唇を波打たせている。あくびを堪えているのだろう。

 深紅のソッターナに同系色のマント。腰に巻かれた細いベルトの上には丸い腹が乗っている。肩にかけられたアーミンは『サンダールナール』と呼ばれる白い狐型のモンスターのもの。

 献上したのは勇者クリストフ・リリェバリ。脅威レベルはS。上から数えて三番目の危険度を誇るモンスターのものだ。『サンダールナール』が持つ属性はその名の通り雷。高電圧での強力な攻撃、高速での移動を得意としており、並の使い手では手も足も出ないと言う。

 エレノアは背後に立っていたレイモンド、ウィリアムの間を通って扉をくぐった。暫く歩いたところで中庭に出る。左右には噴水が置かれ、その周囲を囲むようにして赤い薔薇が植えられていた。

(綺麗ね)

 芝や薔薇の花が日の光を受けて輝いている。とても淡い光だ。ひらひらと舞い飛ぶ白い蝶を目で追う内に心が和んでいくのを感じた。

「やぁ、エレノア。聞いたよ。明日にでも王都を発つそうだね」

「っ! クリストフ様」

 通路の先には金髪の男性と、白いカソック姿の女性の姿が。男性は女性の肩を抱き、女性は男性の胸に頬を押し当てていた。
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