続▪︎さまよう綸

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 あのバレンタインデーから約1ヶ月。今日はお父さんと一緒に繁華街の高級クラブに行くことになっている。そこのママはお父さんと年が変わらないらしく今夜が最終日で辞められるそうだ。高須の持つ中でも一番と言える高級クラブで長年ママを務めてくれた方で、彼女に花を持たせるため組長自らお店に出向くらしい。

「綸は高須の繁華街の店に行った事がないだろ?正宗は本当に結婚したのか、噂だけじゃないかとも言われているし、ママが綸に会いたいとも言っているから一度だけ行かないか?」

 正宗に相談すると結婚が噂だけというのは面倒なことでもあるから行って来たらいいと言う。彼もママを良く知っているのであとで顔を出すがお父さんと先にゆっくりしていたらいいとのことだった。お父さんと動くなら安心安全だと、正宗はその日も私を定位置の膝に乗せて言った。

 そして今、私はキョロキョロとクラブ内を観察しながら進み奥のVIP席に到着した。お父さんに紹介してもらったママは和装の良く似合う女性だ。
 
 お父さんと私が並んで座るとママがお父さんの向こう隣に座った。そしてすぐにモデルのような美しいお姉さん二人が入って来られた。とても丁寧なご挨拶をして下さったのはマリアさんとカイラさん。そしてマリアさんが

「高須様、お隣失礼致します」

 と言われたのでなるほどと立ち上がったのだが、お父さんが私の手首を持ち

「今日はママと綸に挟まれて飲む」

 と言う。引かれるままストンと座るとお父さんは私の頭を軽くポンポンとする。正宗とそっくりじゃないかとお父さんを見ると目が合い、今度は頭をくしゃっと撫でられた。そっくりじゃない…同じだ。
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