煙草を吸う女

煙草を吸う女

 喫煙所にいる彼女が普段見るよりも随分色っぽいな、と思ったら急激に意識してしまった。疲れが酷くクマも化粧で隠せていない彼女が煙草を口に含んで、ふーーと煙を吐き出すところをみるとタイプでもないのにどきどきした。雑に束ねた一つ結びも、咥えた先に口紅が微かについているのも女を感じていい。会社の先輩の沢口さんは会社の事務員さんで、いつも疲れが表情に滲んでいる。少し苦手なくらいだったはずだが。

 沢口さんは喫煙室内からこちらを見て「関根くんも吸うの?」とそれほど興味もなさそうに聞いた。扉付近にいたから明瞭に聞こえた。俺は全く持って吸わない。興味すら今まで沸かなかった。学生時代、煙草を吸って停学になった同級生を馬鹿にしていたくらいだ。俺はなんだか浮かれて煙草も吸わないのに、喫煙室に入った。もわっとした脂の臭いが部屋に染みついていて思わず顔を顰める。
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