龍神様のお菓子
一色触発
「オリエンテーション終わったんだろ?」
まるで、少し前から監視していたかのような物言いに夢香は少し気味悪がる。
「えぇ…、まぁ。えっと…、こんにちは神さん」
一応普通に挨拶をすると、神は低いこえで「龍青な」と呟いた。
「…龍青さんはどうしてここに居るんですか?」
夢香は名前を呼び直すと、何故椿庵ではなくこの場にいるのかを尋ねる。
「あぁ、言ってなかったっけ?俺ここの院生だから」
「え、学生さんだったんですか?」
龍青の言葉に夢香は驚きの表情を見せる。まさか同じ大学に通っているとは思いもしなかった。
「んだよ。俺が学生じゃ不満か?」
龍青はめんどくさそうに頭を掻く。
「いえ、そう言う訳では…、ちょっとビックリしただけで…」
「それより、誰?」
「へ?」
あわあわと慌てた様子の夢香を他所に龍青は昴の方へと視線を投げる。
「あ、わ、私の幼馴染で今日久々に再開した小鳥遊昴君です!昴君。この人は、えっと私のこれからバイトする和菓子屋さんの店長さんで…」
「へぇ、あんたが夢の幼馴染ねぇー」
夢香が説明を終える前に龍青は昴の顔を覗き込む。
「なんすか…」
どこか挑発的な態度に昴は顔を顰める。
「いや、別に?それより、今晩飯でもどうよ?」
「ご飯ですか…?」
「俺がここら辺のうまい飯屋案内してやるよ」
龍青はまるで昴の存在などなかったかの様に夢香の肩に手を回す。
「行きたいのは山々ですが…、今はお金が無いのでまた今度では駄目でしょうか?」
そんな龍青の態度に夢香は困った様に眉を下げる。今月は新生活に必要な生活用品を購入したため、金欠気味なのだ。
あまり乗り気では無い夢香の態度に龍青は「んなの、俺が奢るに決まってんじゃん」と口を尖らせて反論する。
「いや、それはちょっと…」
恋人関係でもない異性に支払わせるのもどうかと思った夢香は口籠る。そもそも龍青とは昨日出会ったばかりでまだ友達関係ですら無い。それなのにぐいぐいと距離を縮めようとしてくる龍青に夢香は戸惑いを隠せない。
イケメンって皆んなこんな感じなのだろうかーー?
「んだよ、ノリ悪ぃな…」
「いや、でも…」
どう誘いを断るべきか困った夢香の様子に、隣で黙っていた昴が突然口を開いた。
「おい」
「あ?」
「困ってんだろ、いい加減うぜぇって気づけよ」
まるで容赦の無い一言に、夢香は驚く。
「ハハ、ウケる。この俺に指図すんの?」
「は?何言ってんだてめぇ…」
しかし、龍青は全く気にする様子無く、まるで小学生を相手する様に鼻で笑った。
「…」
「…」
両者暫く睨み合った末、龍青は諦めたように溜息を吐くと、「わぁーったよ」と言って夢香の肩から手を離した。
「確かに今のはウザ絡みだったな、飯はまた今度」
「え、あ、はい」
意外にもすんなりと、身を引いた龍青に夢香はほっと息を吐く。
「じゃ、俺この後実験控えてるから行くわ。あ、ちゃんとバイト来いよー?」
龍青はそう言うとへらへらと手を振って、まるで何ごともなかったかの様にその場を去っていった。
「一体なんだったんだろう…」
「知るかよ…、ってかあんなやつの所でバイトすんのか?」
昴はどこか疲れた様子で夢香に尋ねる。
「うん!椿庵って所なんだけど、美味しい和菓子が沢山揃ってて、どれも職人の手作りなの!今度昴君にも買ってくるね」
「…」
嬉しそうに答える夢香に昴は内心複雑な思いを抱く。
「いくらでんの?」
「?」
「バイト代」
「あぁ、時給1500円!すごいでしょ?地元じゃ考えられない!」
「それ大丈夫なのか?」
「何が?」
「いや、その、色々と…」
昴は先ほどの、超身勝手店長の姿を思い出してため息を吐く。あの様子だと、普通にバイトする意外に何か裏がありそうでならない。
「じゃあ、俺も働こうかな」
「昴君も?」
「俺も一人暮らしだし、金は色々と必要だし…」
昴は何かと理由をつけてそう答えると、夢香をチラリと見る。
「じゃあ、私から龍青さんにお願いしてみるね!あ、そうだ、連絡先交換しとこ?」
互いのスマホでIDを交換すると、夢香は満足そうに微笑んだ。
「じゃあ、私こっち側だから!またね!昴君」
気づけば校舎の外に出ていた二人は、分かれ道で解散する。昴は大きく手を振る夢香に小さく手を振りかえすと、自身も帰路へつくため、横断歩道を慌てて渡る。
あと少しで信号機が赤へと変わるギリギリのところで向かいの道へと辿り着くと、鞄をかけ直して細い道を進んでいく。
「神龍青か」
昴はふと先ほどの男の名前を呟くと盛大にため息を吐いた。
「神様みてぇな名前だな」
まるで、少し前から監視していたかのような物言いに夢香は少し気味悪がる。
「えぇ…、まぁ。えっと…、こんにちは神さん」
一応普通に挨拶をすると、神は低いこえで「龍青な」と呟いた。
「…龍青さんはどうしてここに居るんですか?」
夢香は名前を呼び直すと、何故椿庵ではなくこの場にいるのかを尋ねる。
「あぁ、言ってなかったっけ?俺ここの院生だから」
「え、学生さんだったんですか?」
龍青の言葉に夢香は驚きの表情を見せる。まさか同じ大学に通っているとは思いもしなかった。
「んだよ。俺が学生じゃ不満か?」
龍青はめんどくさそうに頭を掻く。
「いえ、そう言う訳では…、ちょっとビックリしただけで…」
「それより、誰?」
「へ?」
あわあわと慌てた様子の夢香を他所に龍青は昴の方へと視線を投げる。
「あ、わ、私の幼馴染で今日久々に再開した小鳥遊昴君です!昴君。この人は、えっと私のこれからバイトする和菓子屋さんの店長さんで…」
「へぇ、あんたが夢の幼馴染ねぇー」
夢香が説明を終える前に龍青は昴の顔を覗き込む。
「なんすか…」
どこか挑発的な態度に昴は顔を顰める。
「いや、別に?それより、今晩飯でもどうよ?」
「ご飯ですか…?」
「俺がここら辺のうまい飯屋案内してやるよ」
龍青はまるで昴の存在などなかったかの様に夢香の肩に手を回す。
「行きたいのは山々ですが…、今はお金が無いのでまた今度では駄目でしょうか?」
そんな龍青の態度に夢香は困った様に眉を下げる。今月は新生活に必要な生活用品を購入したため、金欠気味なのだ。
あまり乗り気では無い夢香の態度に龍青は「んなの、俺が奢るに決まってんじゃん」と口を尖らせて反論する。
「いや、それはちょっと…」
恋人関係でもない異性に支払わせるのもどうかと思った夢香は口籠る。そもそも龍青とは昨日出会ったばかりでまだ友達関係ですら無い。それなのにぐいぐいと距離を縮めようとしてくる龍青に夢香は戸惑いを隠せない。
イケメンって皆んなこんな感じなのだろうかーー?
「んだよ、ノリ悪ぃな…」
「いや、でも…」
どう誘いを断るべきか困った夢香の様子に、隣で黙っていた昴が突然口を開いた。
「おい」
「あ?」
「困ってんだろ、いい加減うぜぇって気づけよ」
まるで容赦の無い一言に、夢香は驚く。
「ハハ、ウケる。この俺に指図すんの?」
「は?何言ってんだてめぇ…」
しかし、龍青は全く気にする様子無く、まるで小学生を相手する様に鼻で笑った。
「…」
「…」
両者暫く睨み合った末、龍青は諦めたように溜息を吐くと、「わぁーったよ」と言って夢香の肩から手を離した。
「確かに今のはウザ絡みだったな、飯はまた今度」
「え、あ、はい」
意外にもすんなりと、身を引いた龍青に夢香はほっと息を吐く。
「じゃ、俺この後実験控えてるから行くわ。あ、ちゃんとバイト来いよー?」
龍青はそう言うとへらへらと手を振って、まるで何ごともなかったかの様にその場を去っていった。
「一体なんだったんだろう…」
「知るかよ…、ってかあんなやつの所でバイトすんのか?」
昴はどこか疲れた様子で夢香に尋ねる。
「うん!椿庵って所なんだけど、美味しい和菓子が沢山揃ってて、どれも職人の手作りなの!今度昴君にも買ってくるね」
「…」
嬉しそうに答える夢香に昴は内心複雑な思いを抱く。
「いくらでんの?」
「?」
「バイト代」
「あぁ、時給1500円!すごいでしょ?地元じゃ考えられない!」
「それ大丈夫なのか?」
「何が?」
「いや、その、色々と…」
昴は先ほどの、超身勝手店長の姿を思い出してため息を吐く。あの様子だと、普通にバイトする意外に何か裏がありそうでならない。
「じゃあ、俺も働こうかな」
「昴君も?」
「俺も一人暮らしだし、金は色々と必要だし…」
昴は何かと理由をつけてそう答えると、夢香をチラリと見る。
「じゃあ、私から龍青さんにお願いしてみるね!あ、そうだ、連絡先交換しとこ?」
互いのスマホでIDを交換すると、夢香は満足そうに微笑んだ。
「じゃあ、私こっち側だから!またね!昴君」
気づけば校舎の外に出ていた二人は、分かれ道で解散する。昴は大きく手を振る夢香に小さく手を振りかえすと、自身も帰路へつくため、横断歩道を慌てて渡る。
あと少しで信号機が赤へと変わるギリギリのところで向かいの道へと辿り着くと、鞄をかけ直して細い道を進んでいく。
「神龍青か」
昴はふと先ほどの男の名前を呟くと盛大にため息を吐いた。
「神様みてぇな名前だな」