君の隣にいられたなら。
「あ、え。綺音?何で?」
「いや、部活見学だけど……帰り?俺も一緒に帰っていい?」


綺音はいつもみたく爽やかな笑顔で私の隣に並ぶと、ちらっと先輩の方に視線を移した。


「あれ?綺音、俺見えてる?」
「見えてるけど。だから俺も一緒に帰っていい?って聞いたんだけど」
「こーゆーときは、先輩立てて欲しいんだけど」
「え?何?」


ちょっぴりそっけない対応で、先輩は逆に2割増し笑顔。
ピリッとした雰囲気が漂う。
……一触即発みたいな、そういう雰囲気。


「ま、いーじゃん」


で、結局3人で帰って、気まずい。
綺音がいるからか、先輩は早い段階でT字路の逆側へ歩いて行った。


で、2人になって、またまた気まずい。
今度はさっきの気まずさを少し引きずっているからかもだけど。


「……夏葵と仲良いの?」
「あ、え、先輩?いや、なんかわかんないけど、気に入られた」
「ふーん」


「茉白って、ああいうのは苦手かと思ってた」
「得意ではないかも知れない」
「あ,そこは変わってないんだ」


少し顔が綻ぶ綺音。
どうして喜んでいるのかわからないけど、私の顔も自然と緩んでしまう。

……好き、ってずるいなとこういう時に思ってしまう。


私の気持ちとは裏腹に、すぐに私の家について、ささっと帰んな、って背中を押される。
ウキウキで帰っていく綺音の背中を見つめて、悶々としてしまう。


寂しい。
少しだけ、話してくれることを期待していた。
いや、話すことなんて、ないのはわかってるんだけど。


私はぽっかり空いた心の隙間には気づかないふりをして、家の玄関を開けた。
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