Ring a bell〜冷然専務の裏の顔は独占欲強めな極甘系〜
「どうせお前のことだから、ちゃんと話したこともないんだろ。それってお互いを何も知らないってことじゃないか? なのに好きとかなるわけ?」
「……彼女は俺を知らなくても、俺は彼女を知ってるから、好きになるのは当然だと思う」
「それなら正直者になって話し合うしかないな。感情を(さら)け出すくらいの想いで彼女と向き合わないと、嫌いな奴を好きにはなれないだろ」

 茅島の言う通りだろう。今まで感情を曝け出すことも、仕事以外で会話をすることすら面倒で避けてきた。もしかしたら高臣に残っている手はそれくらいなのかもしれない。

「どうせいつもみたいにホテルの部屋を取ってあるんだろ? 警戒されるかもしれないけど、腹を割って話すなら部屋もいいんじゃないか? 断られたらラウンジで話せばいいわけだし」
「そうだな……いろいろな選択肢を残しておくのは大事なことだ」
「そうそう。後連絡先を聞くのもわすれないように」
「わかってる。ところで、碓氷さんが言っていた土地の件だけど、調べてもらえると助かる」

 あの土地の話が出たのは確か二年前。探し始めてからやけにとんとん拍子にことが進んだので、不思議だとは思っていた。

 しかしこの話を持って来た人間が言葉巧みに社長を納得させたため、高臣を含めそれ以上話を膨らませる人間はいなかった。

「了解。明日には資料を出せるようにしておくよ」
「よろしく頼む」

 とりあえず茅島からの情報を待つことにして、高臣は再び夜のことを考える。

 まずは部屋で話をするように促してから、あの土地についての話を彼女から聞こう。そして紳士的に正体をバラし、彼女に想いを伝えるんだ。

 こんなこと、仕事の会合での挨拶よりも簡単じゃないか。迷う必要なんてないはずだ。

 そうして臨んだ結果がアレだったわけだ。彼女があの頃よりもずっと綺麗になっていて、しかも絞り出すわけじゃなくあんなに可愛い声を発したら、考え続けた計画が全て吹き飛んだ。

 彼女を尊重しなければと思う一方で、今まで培ってきた妄想が頭に甦る。高校の時と変わらない杏奈に対し、高臣の我慢の限界が訪れ、とうとう彼女を貪るように愛してしまった。

 昨夜のことを思い出すだけで、高臣の体は熱くなっていく。やっぱり二人の間には会話や情報が足りないんだ。

 高臣が彼女の前で気持ちを曝けだしたら、嫌いと言いつつも受け入れてくれた。あの瞬間、杏奈の前では素直になろうと思えたんだ。
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