ただの道具屋の娘ですが、世界を救った勇者様と同居生活を始めます。~予知夢のお告げにより、勇者様から溺愛されています~
 勧められるがまま、ビオレッタも目を閉じてみた。
 彼の予知夢が本当に実現する未来なのであれば、ビオレッタにだって同じ予知夢が見えるはず。

「なにか見えますか?」
「うーん……」

 けれど、やはりビオレッタに予知夢が見えることはなかった。
 目を閉じていても、そこにはまぶたに遮られた視界があるだけで、耳に届くのは海にあるべき波の音。
 自分に、ラウレルが見たような『未来』は無いのだと……その事にホッとしたけれど、うっすらと寂しさも感じながらビオレッタは目を開けた。

「わ、私には見えません、その未来が」
「そうですか……ビオレッタさんにも見せてあげたいです。予知夢の俺達は、とても幸せそうだから」

 二度も、そんな未来が見えるなんて……と信じ難い気持ちもあるけれど、彼が嘘をついているようには見えなくて。
 ラウレルがこちらを優しく見つめるから、ビオレッタの心臓はたちまちうるさく騒ぎ出す。

「……今も幸せだな。本人がこうして隣りにいるなんて」

 変わらぬ予知夢に、ビオレッタの胸は振り回される。
 熱くなっていく頬を、爽やかな海風が吹き抜けた。
 
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