ただの道具屋の娘ですが、世界を救った勇者様と同居生活を始めます。~予知夢のお告げにより、勇者様から溺愛されています~
 勇者御一行が以前グリシナ村へ滞在した際に、魔王を討伐する予知夢を見たというのは広く語り継がれている話だが……その予知夢がどうかしたのだろうか。

「その予知夢には続きがあったのです」
「続き?」
「魔王討伐後、あなたと結婚して、この道具屋で平和に暮らしている自分の姿を見たのです」
「ええっ!?」
 
 そんなの初耳だ。まさか、勇者の予知夢に自分が登場してしまっているなんて。

「そ、それは何かの間違いではないですか?」
「いえ。その時はっきりしっかりと脳裏に浮かびました。その淡いブルーの長い髪。すみれ色の透き通った瞳。エプロンをまとった可憐な立ち姿。まさしくビオレッタさん、あなたです」
「ええ……」
 
 困ってしまった。
 だって予知夢など見たことの無いビオレッタには、そんなことを言われても信じられない。しかもお相手は世界を救った勇者様だ。予知夢に見たからといって、こんな道具屋の娘と結婚などあって良いはずないだろう。世間が許すはずがない。

「その……予知夢が本当かどうかなど、分からないではないですか」
「その時に見た魔王討伐は現実のものとなりました。きっと結婚も現実になります」
「そんなまさか」

 ラウレルは、予知夢を疑いもしていないようだった。自信満々に答える彼を前にすると、何事も『現実』になりそうで……ビオレッタの胸はざわついた。
 ビオレッタの大事にしてきたものなど、容易く覆されてしまいそうで。

「ええと……とにかく、いきなり結婚など私には無理です。申し訳ありませんがお引き取りください」
「えっ、あの、ビオレッタさん!」
「お引き取り下さい!」

 ビオレッタはラウレルを店から無理矢理追い出した。
 やっと静まり返った店内では、自分の鼓動だけが激しく音を立てていた。

< 5 / 96 >

この作品をシェア

pagetop