恋愛日和 〜市長と恋するベリが丘〜
(ふふ。楽しみだな、デート。高梨さんがいない分ますます忙しいだろうから、しばらくは無理だって思ってたけど)

壱世からは『大事な話がある』と言われていて、先日の病院で言っていた〝理由〟だというのはなんとなくわかっているが、それでも外で二人で過ごせるのは嬉しい。

「あ! すみません、コードがあるので転ばないように気をつけてください」

胡桃が、座敷の外の廊下を通った人に声をかける。
飯桐では屋根の改修工事に加え、水回りも工事をするということだった。
そのため、胡桃たち以外に作業着姿の烏辺リフォームのスタッフが出入りしている。


午後五時の少し前。

「ひと通り撮影終了かな?」
「はい」
「じゃあ片付けようか。その前に女将さんにそろそろ終わるってご挨拶してくるね」
胡桃は撮影用に借りていた座敷を出て、女将を探した。

(この時間は厨房で打ち合わせしてることが多いって言ってたけど……)
キョロキョロと見回しながら、建物の中を歩く。

「……市長は今頃まだ仕事なんじゃないですか?」

(え?)

飯桐は営業時間外のはずだが、客のいる座敷があるようだ。
中から〝市長〟と聞こえて胡桃は思わず立ち止まる。

「いいんですよ、片付けなんかも好きなくらい働き者のようだから。我々は楽しくやりましょう」
(ん?)

どことなく、壱世を馬鹿にしたような言い方と声に聞き覚えがある。

いけないとはわかっていても、つい、聞き耳を立ててしまう。

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