陽気なドクターは執着を拗らせている。


 私の横の座席の矢田は一人アワアワしている。部長が皆にうすら笑いして誤魔化している横で、矢田は私に、「おまっ……大丈夫なのかよ、部長にあんな態度」と聞いてきた。


「大丈夫、矢田のお望み通り関係性も切ってきたから。あと、矢田のお望み通り私も来月から一緒の部署だよ」


「一緒の部署は別に望んでないけど……でも、頑張ったじゃん」


「望んでよ、友達でしょ! 綿谷先生からこっぴどく説教されたから、なんだか目覚めた。ありがとう、矢田」


「冗談。で、どうなったよ、綿谷さんとは」


「付き合うことになると思う」


 コソコソ話していると、鬼のような形相をした部長が私の席の近くへ来て「喋ってばかりでやる気がないんなら、部署異動になる日まで有給休暇消費しろ。宇野女の有給は来月末ちょうどの日数あったからな」と言われ、翌日から強制的に有給を取らされてしまった。


 こんなに愛が憎しみに変わる瞬間を目の当たりにしたのは初めてかもしれない。


 ――いや、部長が私に抱いていた感情はそもそも愛なんかじゃなかった。


 私は都合の良い遊び人程度で、部長は本気じゃなかったんだ。


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