陽気なドクターは執着を拗らせている。
矢田に被害者面を晒してしまっていると思う。
こんなはずじゃなかった。こんなことを言いたいわけではなかった。
私にはこの会社で頼れる仲間は矢田しかいない。そんな矢田から嫌われてしまったら、どうして良いか分からない。
矢田は、今にも泣き出しそうな私の手を引いた。
「ちょっと来て」
連れられるまま着いた場所は喫煙所だった。矢田は音を出さずに扉を開くと、中には武平部長と武平部長の部下達がタバコを吸っている姿が目に入ってきた。
武平部長達は私達に背を向けていて、ドアが開いていることに気づいていない。
矢田は私に向かって『しーっ』と静かにするように合図した。
中から武平部長の話し声が聞こえてくる。
「――嫁とはずっと仲いいよ。昨日も深夜まで二人で部屋で映画見てたからさー」