病んだ心をつまびいて
.
教室のドアを開けようとする寸前、背後から手を重ねられた。
「いま入んねぇほうがいーよ」
甘ったるい香水。
早瀬だった。
「……おはよ」
顔も見たくなくて、振り向かずに挨拶をする。
私にキスしてきた男。
頬にも、口にも。
なんのつもりなのか、私の背後にぴったりとついて離れない。
あいかわらずの距離感に限界が近くなる。
「ねぇ、早瀬……」
「ちょっとこい」
「は?」
強引に腕を引かれた。
振りほどこうにも力では勝てない。
容赦なく連れられたのは、人気のない踊り場だった。
「ビビりすぎ。なんもしねぇよ」
「信用ならない……戻るから」
「ダメだって。いいからこれ見ろよ」
私の腕をつかんだまま、早瀬はスマホ画面をかざしてきた。
そこに映るのは
───『茜ちゃん……』
私にキスをする、アズマさんの姿だった。