恋愛下手の恋模様

食事の席で

そこは遼子さん行きつけの店だというイタリアンカフェだった。

注文した料理がテーブルに並ぶより先に、遼子さんは宣言するように言った。

「私ね、気になったら早く解決したい性質(たち)なのよね」

スイーツの香りでも纏(まと)っていそうな甘い外見のくせに、実はこの先輩がさっぱりとした性格だということを私はよく知っている。

「はい……」

やっぱり話題はあのことだ、と私は身構える。遼子さんに直接ぶつかるつもりで食事の誘いを受けたくせに、私は身をすくめて小さくなっていた。

「岡野さん、今日、倉庫にいたでしょ」

早速来た――。

単刀直入な物言いに押されて、私は観念して頷いた。

「そして、私のこと、避けようとしてたわよね？」

私は言葉に詰まった。心の中で「その通りです」と答える。

彼女はふっと表情を緩めると、前置きなく核心を突いてきた。

「やっぱり、山中君のことが原因なのかしら」

頷くのにためらって私は目を泳がせた。

しかしそれだけで十分に伝わったらしい。優しい声で遼子さんは言った。

「岡野さんは、山中君のことが好きなのね」

私ははっと顔を上げた。

「あの時倉庫の資料室に、確かに私は山中君といた。だけどそれは、資料を取りに行って、偶然あの場で会っただけで、私たちの間には何もないわ」

遼子さんは真顔でそう言うと、目の前のグラスに手を伸ばして喉を潤した。

「たぶんだけど、私たちの会話のあの辺を聞いたんだろうな、って思ってる。念のため、もう一度言っておきます。私と山中君の間に、恋愛感情はまったくありません。お互いに、ってことよ。第一よく考えてみて。もしも私たちがそんな関係だったら、私が他の人と結婚するなんてありえないんだから」

「それはそうなんでしょうけど……」

私は口ごもりながら一応頷いた。しかし、その説明を聞いただけで、そう簡単には納得できなかった。聞いてしまった補佐の寝言や、歓迎会や朝礼の時に見せた彼の微妙な表情が、私の心に引っかかっているからだ。

「すぐには信じられないって顔よね……。やっぱり、もっと前のことから話した方がいいのかな」

遼子さんは苦笑を浮かべると、少し考えるように上を向いた。

「もうずっと前のことよ。私、山中君から告白されたことがあった。一緒に組んで仕事をするようになって、しばらくたってからだったと思う。でも、断りました。だって、私には恋人がいたからね。それにね……」

と、いったん言葉を切ると、彼女は言いにくいような顔をして続けた。

「私にとって山中君は『いい人』だったの。恋愛感情は持てなかったのよね……」