恋愛下手の恋模様
7.機会

期限


宍戸から告白されたあの日以来、彼を見かけるたびに私の心はざわめいた。けれどそんな時は、山中補佐のことを胸に思い浮かべて、宍戸との出来事を頭の中から振り払った。

山中補佐と言えば――。

以前よりも目が合うようになったと思うのは、気のせいだろうか。補佐の忙しさは相変わらずのようだったが、周りにひと気がないような時には、親し気に笑いかけてくれるような気がした。そこに特別な意味はなかったかもしれない。しかし、遼子さんが退職して間もない今、まだまだ心細い毎日を送っていた私はその笑顔に励まされていた。

それにしても、とパソコンのキーボードをたたく手を止めて、私はため息をついた。すっかり片付いてしまった隣のデスクを見る。

遼子さんにはずいぶん頼って、甘えていたんだな――。

彼女の退職からもうすぐひと月。頼りにしていた存在が傍にいないということに、慣れることができない。仕事はなんとかひと通り覚えたし、相談できる先輩も上司もいる。決して孤立無援というわけではないのだが、そう簡単に心細さはなくならない。しっかりしなければと気持ちが張り詰めているからか、ここ数日は眠りの浅い夜が続いていた。

今朝もやはり、胸の辺りがつかえるような緊張感を抱えながら、私は出社した。体調が悪いわけでもない、仕事が嫌いというわけでもないのだが、なんとなく体が重かった。

気分を変えてお茶でも買ってこようと、私はロッカールームに荷物を置くと、自動販売機のある休憩スペースに向かった。その途中で、宍戸とばったり出くわした。

あの「事件」の日以降、宍戸とまともに顔を合わせるのは久しぶりだった。そのため、どんな態度を取ればいいのか迷った。宍戸の行いを完全に許したわけではなかったから、それを表すために無視してもよかった。けれど、彼をそこまで嫌いになったわけではなかった。私は顔をしゃんと上げると、あえて彼の目を真っすぐに見て挨拶をした。

「おはよう」

私から先に声をかけてくるとは思っていなかったのだろう。宍戸はうろたえた顔で足を止めた。彼もまた迷うようにその目を揺らしたが、気まずいような表情を浮かべながら挨拶を返してよこした。

「おう、おはよ」

私たちの視線は一瞬だけ交差した。しかし、私も宍戸もそれ以上、会話を続けるための言葉を見つけることができなかった。

やっぱり、元通りは無理なのかな――。

仕方がないとは言え、寂しく思う。

「それじゃあ、ね……」

私はうつむきながら、宍戸の横を通り過ぎようとした。

その時、宍戸の手に腕を捉えられて引き留められた。

ぎょっとして、私はその手を振り払った。

「やめてよ」

私は彼を睨みつけた。

「ごめん」

宍戸はあっさりと手を放した。それから身をかがめて私の顔を覗き込む。

「何……?」
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