鳴り響く秋の音と終わらない春の恋
「本来の俺の性格とは違う自分を演じているんだー」

その言葉はどこまでもどこまでもどこまでも、私の内側に響いた。
本当の性格とはかけ離れた自分を演じてしまうというのはどんな感じなんだろう。

「違う自分を演じているの。そういえば、音楽科の高校って……?」
「父さんに言われて、小さい頃からヴァイオリンを習っているんだ。秋斗の時だけー」

裏を知れば、同じ事象でも見方が変わる。
見方が変われば、私の知らなかった世界も変わっていく。

「……三宅くんは秋斗くんのことが大切なんだね」
「おう。俺の魂の片割れだからなー」

どこまでもまっすぐな笑顔と言葉に、私は無性に泣きたくなる。

魂の片割れは自分。
それはつまり――

三宅くんがこの世界から消えてしまう確率は二分の一。
随分、分の悪い賭けだ。

三宅くんはいつか死んでしまうかもしれないのに、怖くないのだろうか。
それとも、どちらも自分自身だから怖くないのだろうか。
いや、置いて行かれる悲しさも、それを追い求めてしまう苦しさも、三宅くんにはよく分かっているのだ。
……きっと、三宅くんは三宅くんとして生きていくことも、秋斗くんとして生きていくことも選べずにいる。

思えばこの時だ。三宅くんという男の子が頭から張り付いて離れなくなったのは。

「……私は三宅くんにこのまま、生きていてほしいよ」

私が三宅くんに特別な想いを抱くようになったのは、この日が始まりだった。





それからの毎日は充実した日々だった。
月曜日は一週間の始まり。
金曜日までは果てしなく遠い。
でも、教室に向かう先に三宅くんの後ろ姿を見た途端、身体に力が入る。

「三宅くん、おはよう」
「おっす」

三宅くんと挨拶をするだけで、私の胸が鼓動を早めているのが分かる。

「その……昨日はありがとう」
「無理は禁止」
「……うん。ありがとう」

さりげない優しさに触れて、私は穏やかに微笑んだ。

三宅くんは『共依存病』の影響で学校を一日置き、空けて登校しているため、いつでも会えるわけではない。
それでも三宅くんと初めて会話した日から、私は知らない間に三宅くんに視線が行くことが多くなってしまった。
心が強く惹かれたからとか、切なくて甘酸っぱくて、命が燃え尽きるような恋をしたとか。
そうしたものだと誤魔化すことだってできるだろう。
なのに、目を離すことができなくなったのは、三宅くんがこれから進む未来を一緒に見てみたいと思ったからだ。

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