Runaway Love

39

 月曜日、出向一日目。
 あたしは、いつもよりも三十分早く起きて、身支度を整える。
 軽く朝食を取り、念のため、生理痛の薬も飲んでおく。

 ――じゃあ、行きますか。

 時間は本社と同じ九時出勤。
 バスで約四十分。バス停は会社手前から乗られるので、大体徒歩十分。
 ネットの時刻表をもう一度確認して、あたしは、アパートを出る。
 初日なので、到着を二十分程、早く見積もると、ちょうど良い発車時間は八時だ。
 ありがたい事に、降りるバス停は工場のほぼ真ん前なので、時差を考えなくて良い。
 学生や、出勤途中の会社員とすれ違いながら、あたしは、野口くんが買ってくれたパンプスで歩き出す。
 一応、工場の中ではスニーカー指定なので、別の袋に入れて持つ。

 あとは――……。

 あたしは、無意識にため息をついた。

 ――余計な情報が出回っていない事を祈るだけだ。

 バス停に到着すると、既に五、六人ほどの人間が待っていた。
 最後尾に並ぶと、すぐにバスが見えてくる。
 意外と早い到着に、感心してしまう。
 ブザー音とともに開く扉に、少々戸惑いながらステップを上がり、車内を見回す。乗車率は、ほぼ百パーセントといったところか。
 降りる人と、乗る人が、プラマイゼロのようだ。
 あたしは、真ん中辺りの一人掛けの席に座ると、ほう、と、息を吐いた。
 すぐに出発したバスは、若干の揺れがあったが、安全運転で走行している。
 しばらく、ぼうっと窓の外を眺めていると、徐々に、出勤途中であろう車が渋滞し始めていた。
 ――野口くんが言っていたのは、コレの事なんだろうか。
 彼は、それで、早く来ていると言っていたから。

 ――今日から、大丈夫なんだろうか。

 少しは良くなったとはいえ、まだまだ、他の部署の人達と話すのは苦手なようだ。
 書類を持って行ったりすると、かなり消耗していた気がする。
 あたしと話す時は、普通なのに――……。
 それに、あたしがいない時に、女性社員にロックオンされたら――ちゃんと、あしらえるのか不安だ。
 受付の篠塚さんや、総務の女性たちなどは、早川がいない今、野口くんへの視線が強まっているようだし。
 昼食も、ちゃんと携帯食以外食べてくれるんだろうか。
 あたしが、お弁当作って行く訳にもいかないんだから。
 ――本だって、徹夜してなけりゃ良いんだけど。
 次々と浮かぶ不安は、彼女というより、保護者のようなものになっている。

 ――……まあ、野口くんだって、ちゃんと大人なんだし。

 思わず、苦笑いが浮かんだあたりで、停留所のアナウンスがあり、慌ててボタンを押そうと思ったが、他の人が押していた。
 たぶん、工場の人だろう。
 あたしは立ち上がると、後ろから来る人をやり過ごしてから、既に受け取っていた定期を、運転手に見せて降りる。
 そして、その場で立ち止まるが、ぞくぞくと工場の正門へと向かって行く人達に圧倒され、流されるように、あたしも向かった。
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