Runaway Love
 奈津美が産まれた時から、あたしは、何かにつけて比較対象にされてきた。
 それでも、五歳差という事もあって、小さい頃は、そこまで深刻にとらえてはいなかった。

 ――けれど。

 高校生の時。
 一人だけ――いいな、と、思っていた先輩がいた。
 同じ図書委員で、受付担当日が一緒。
 少し派手目だったので、距離を置こうとしたけれど、思っていた程の圧も無く――何より、その時、好きだった本の話ができたので、警戒心は緩んでいたのだ。


 ――杉崎さんって、そういう本読むんだ。
 ――僕はさ、じゃんけんで負けたから委員になったんだけど、話聞いてたら、読んでみたくなったな。


 自分が認められたようで、うれしくて――数回担当が一緒になっただけだけど、もしかしたら、なんて、淡い期待も持ってしまった。


 そして、夏休みに入って最初の担当の日。

『終わったら、一緒に本屋行かない?』

 誘われる事自体が初めてで、あたしは、息をのんだ。
 けれど、必死にうなづき、先輩もわかってくれた。

 本屋では、一緒にいろんな本を見て回って……初めて男子といて楽しかったのに――。


『あ、いた!お姉ちゃん!』

 そこは、中学校からの帰り道にあり、家からも十分かからない所。

『奈津美』

 私服の奈津美は、中学生には、とても見えず。
 ちょうど本屋から出てきたあたし達に、駆け寄って来た。

 奈津美には、一応、留守番をしているので、連絡だけはしておいたのだ。

『やっと、見つけた!用事、終わった?お母さん仕事でいないし、あたし、お腹すいちゃったから、お昼食べに行った方が早いでしょ!』

『え、あ、でも……』

 あたしが、気まずくなって、隣を見やれば――……。

『妹さん?』

 先輩が、完全に、奈津美に見とれているのがわかり、あたしは思わず視線を落とした。

『ハイ。初めまして!』

 昔から、あたしとは正反対で、人懐っこい奈津美は、すぐに先輩と打ち解けた。
 そして、二人だけで会話は盛り上がり、そのままご飯に行く事になる。

 あたしは、それを、放心状態で見送ったのだ。


 ――まるで、あたしの存在なんて、無いと同じ。


 振り返りもせず歩いていく二人を見て、そう、感じた。

 ――けれど、その後、追い打ちをかけるような続きがあるなんて、あの時は思いもしなかったのだ。


 ――……そして、あたしは、それまで以上に、奈津美を避けるように生きてきた。



 あたしは、大きく息を吐き、ベッドに横たわった。

 早川が出て行った後、どうにか動き出し、夕飯も食べずに心の中のモヤモヤと闘っていたのだ。

 ――あたしには、恋愛なんて、必要ない。

 それが、あの時から心に決めた事。

 

 ――”つまんねぇ女。時間の無駄だったわ”。

 あれから、ずっと、あたしの中に刺さり続けている棘。

 ――抜く事も、抜ける事もかなわない。

 傷口は、未だに、膿み続けている。
< 18 / 382 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop