Runaway Love
「お待たせ致しました」
湯気と良い香りが目の前を通り、テーブルに置かれる。
適当に頼んだ煮込みハンバーグは、デミグラスソースのど真ん中に大きなハンバーグ、添えてある温野菜は、ゴロゴロと大きい。
スープはあっさりとしたものらしく、添えられたのはフランスパン。
いかにも、洋食、という見目に、しばし見とれる。
今まで縁の無かった――来たくても来る事がかなわなかった”けやき”に、こんなに頻繁に来られて、いろんな料理を食べられるなんて……昔のあたしには、想像もつかなかっただろう。
そんな事を思っていると、視線を感じて顔を上げる。
すると、野口くんは、既にオムライスに手をつけながら、あたしを楽しそうに見やっていた。
「茉奈さん、食べないんですか?」
「えっ、あ、食べるわよっ……」
慌ててナイフとフォークを持つと、まずは、ハンバーグから手をつける。
美味しそうな焼き目にナイフを入れれば、スルッと入り、思った以上に柔らかい感触に感動してしまった。
一口大にして口に入れれば、その味に更に感動。
立て続けに口にしていくと、
「美味しいですか、それ?」
野口くんが、興味深そうに尋ねるので、あたしは、力いっぱいうなづく。
「――じゃあ、一口、ください」
「え」
そう言って、彼は、あたしが口にしようと持っていた、ハンバーグが刺さっていたフォークに手をやり、自分の口へと運んだ。
「――……っ……!!」
真っ赤になって固まったあたしと、ざわつく周りをまったく気にせず、野口くんは微笑む。
「確かに。美味しいですね」
彼は、あっさりとそう言って、再び自分のオムライスへスプーンを入れる。
「茉奈さん、いりますか?」
「だっ……大丈夫!!」
お返しにとばかりに、自分の手元へ視線を向ける彼に、あたしは全力で首を横に振って辞退したのだった。
会計を終え、車に乗り込むと、あたしは”けやき”を見やった。
岡くんが、空いた皿を下げに来たのに、会計時に来なかったのは、バイト時間が終了なのか、もしくは――。
「茉奈さん?」
「え、あ、ごめんなさい」
声をかけられ、あたしは、慌ててシートベルトを締めた。
野口くんは、それを見てから、車を出す。
「――じゃあ、送るだけで」
少々不服そうに、けれど、そう言って、彼はあたしのアパートへと向かう。
「あ、そうだ。さっき、払ってもらった分」
あたしは、思い出すとバッグから財布を取り出す。
ああいう場面で、あたしが出すのもマズイのかと思い、一旦引き下がったが、やっぱり気にかかるのだ。
「いいですよ」
「でも」
「気にしないでください。――別に、それで対価をもらおうとか、思ってませんから」
「対価って……。まあ……それじゃあ……ごちそうさま」
あたしは、苦笑いすると、素直におごられることにする。
野口くんは、チラリとこちらを見やると、口元を上げた。
「どういたしまして」
それだけ言って、車を左折させた。
「じゃあ、ありがとう。おやすみなさい」
「ハイ。――おやすみなさい」
お互いに淡々と返すと、あたしは車から降りる。
アパートの階段を上り、部屋に着くと、下から車が発車する音が聞こえた。
変わらず、あたしが部屋に着くのを、待っていてくれたらしい。
鍵を開けて、中に入ると、あたしは玄関でへたり込んでしまった。
今になって、心臓がうるさい。
二人が顔を合わせるのは――以前に、ここで交際宣言した時以来だろう。
その上で――ああやって、何も無いような態度でいられるのは何でだ。
すると、バッグの中から、振動音が聞こえ、あたしはスマホを取り出した。
湯気と良い香りが目の前を通り、テーブルに置かれる。
適当に頼んだ煮込みハンバーグは、デミグラスソースのど真ん中に大きなハンバーグ、添えてある温野菜は、ゴロゴロと大きい。
スープはあっさりとしたものらしく、添えられたのはフランスパン。
いかにも、洋食、という見目に、しばし見とれる。
今まで縁の無かった――来たくても来る事がかなわなかった”けやき”に、こんなに頻繁に来られて、いろんな料理を食べられるなんて……昔のあたしには、想像もつかなかっただろう。
そんな事を思っていると、視線を感じて顔を上げる。
すると、野口くんは、既にオムライスに手をつけながら、あたしを楽しそうに見やっていた。
「茉奈さん、食べないんですか?」
「えっ、あ、食べるわよっ……」
慌ててナイフとフォークを持つと、まずは、ハンバーグから手をつける。
美味しそうな焼き目にナイフを入れれば、スルッと入り、思った以上に柔らかい感触に感動してしまった。
一口大にして口に入れれば、その味に更に感動。
立て続けに口にしていくと、
「美味しいですか、それ?」
野口くんが、興味深そうに尋ねるので、あたしは、力いっぱいうなづく。
「――じゃあ、一口、ください」
「え」
そう言って、彼は、あたしが口にしようと持っていた、ハンバーグが刺さっていたフォークに手をやり、自分の口へと運んだ。
「――……っ……!!」
真っ赤になって固まったあたしと、ざわつく周りをまったく気にせず、野口くんは微笑む。
「確かに。美味しいですね」
彼は、あっさりとそう言って、再び自分のオムライスへスプーンを入れる。
「茉奈さん、いりますか?」
「だっ……大丈夫!!」
お返しにとばかりに、自分の手元へ視線を向ける彼に、あたしは全力で首を横に振って辞退したのだった。
会計を終え、車に乗り込むと、あたしは”けやき”を見やった。
岡くんが、空いた皿を下げに来たのに、会計時に来なかったのは、バイト時間が終了なのか、もしくは――。
「茉奈さん?」
「え、あ、ごめんなさい」
声をかけられ、あたしは、慌ててシートベルトを締めた。
野口くんは、それを見てから、車を出す。
「――じゃあ、送るだけで」
少々不服そうに、けれど、そう言って、彼はあたしのアパートへと向かう。
「あ、そうだ。さっき、払ってもらった分」
あたしは、思い出すとバッグから財布を取り出す。
ああいう場面で、あたしが出すのもマズイのかと思い、一旦引き下がったが、やっぱり気にかかるのだ。
「いいですよ」
「でも」
「気にしないでください。――別に、それで対価をもらおうとか、思ってませんから」
「対価って……。まあ……それじゃあ……ごちそうさま」
あたしは、苦笑いすると、素直におごられることにする。
野口くんは、チラリとこちらを見やると、口元を上げた。
「どういたしまして」
それだけ言って、車を左折させた。
「じゃあ、ありがとう。おやすみなさい」
「ハイ。――おやすみなさい」
お互いに淡々と返すと、あたしは車から降りる。
アパートの階段を上り、部屋に着くと、下から車が発車する音が聞こえた。
変わらず、あたしが部屋に着くのを、待っていてくれたらしい。
鍵を開けて、中に入ると、あたしは玄関でへたり込んでしまった。
今になって、心臓がうるさい。
二人が顔を合わせるのは――以前に、ここで交際宣言した時以来だろう。
その上で――ああやって、何も無いような態度でいられるのは何でだ。
すると、バッグの中から、振動音が聞こえ、あたしはスマホを取り出した。