Runaway Love
 昼休み、食堂に入ると、奥に座っていた永山さんが手招きしてきた。
「お疲れ様ー!その人が新人さんかい?」
「あ、ハイ。小川さん、こちら、第二工場の永山さん」
「よ、よろしくお願いします……」
 すると、永山さんは、ニッコリと笑って自分の前の席に手を向けた。
「よろしくねぇ!ホラ、座って、座って!」
 小川さんは、圧倒されながらもうなづき、あたしと一緒に永山さんの前に座った。
 そして、二人でお弁当を広げていると、後ろから元気な声が響いてくる。
「あー、杉崎さん!アタシ等も一緒しますー!」
 藤沢さんが、飛びつくようにやってきて、テーブルを寄せてきた。
「それにしても、大阪出向って、何でですかー!もう、急すぎますよ!」
「ご、ごめんなさいね……。あたしも、昨日辞令もらったばかりで、何が何やらって感じで……」
「でも、一か月で戻って来るんですよね?」
「まあ、その予定だけど……でも、戻っても、本社だから……」
 申し訳無くなってしまうが、藤沢さんは笑って首を振った。
「良いんですよ、それは!たまには、お茶しましょうねー!」
「あ、ありがとう」
「もう、藤沢、お昼時間無くなるでしょ」
 一緒にいたコ達にたしなめられ、全員でお昼となった。

 その後、ウチの会社や工場の詳しい説明。
 それをしながらの、通常業務。
 予想通り、押せ押せだ。
 あたしは、先に小川さんを上がらせると、最終チェックをして、鍵を片付ける。
 時間を見やれば、八時半を過ぎていた。
 ――まあ、仕方ない、か。
 まったくの、畑違いというか、会社勤め自体から遠ざかって十年近いというのだから、基本の基本からの教育になる。
 彼女が昔勤めていたのは、普通の問屋の事務作業というから、ウチと大差はないような気もするが――やはり、このブランクは大きい。
 そもそも、パソコンが使えないと始まらないが、彼女は、そこまで詳しくなかった。
 ひたすらにメモを取り、あたしの説明を聞く姿勢は買うが――本当に、期限までに独り立ちできるか、少々不安になってしまった。

 今日は、誰からも連絡は無く、あたしは人のまばらなバスに乗車する。
 いつもの席に座ると、ぼうっと、外を眺めた。
 もう、真っ暗な国道は、走っていく車のヘッドライトと、様々な店の看板で、人工的な光に照らされている。

 ――……大阪、か……。

 もしも――早川がいなかったら、そのまま向こうに行くのもありなのかと思ってしまう。
 けれど、今は、できない。
 見慣れた景色が視界に入り、あたしは降りる準備をする。
 降車ボタンを押し、バスが停まると、いつものように定期を見せて降りる。
 暗くなった道を歩き出すと、すぐにバッグに入れていたスマホが振動し始めた。
 あたしは、一瞬、ビクリとしてしまうが、中から取り出せば、野口くんの名前が表示されていた。
 ――……そうだった。
 彼は、何も無くても、電話すると言っていた。
 その言葉を思い出して、あたしは、通話状態にしたスマホを耳に当てた。
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