Runaway Love
 早川と共に大阪支店に到着し、あたしは、キョロキョロと辺りを見回した。
 ビジネス街かと思ったら、商店街のすぐそばの、古いビルの二階。
 こじんまりとしたそこは、本社や工場に慣れきっていたあたしには、中々の衝撃だった。
「ビビるな。やるコトは変わらねぇんだからよ」
「わ、わかってるわよ」
「あと、全体的に、ビビるなよ」
「え?」
 すると、ドアノブを引き、早川は大きな声で挨拶をする。

「おはようございます!」

「おーう、おはようさんー!」

 口々に挨拶をされるが、そのイントネーションに違和感だらけだ。
 ――そうだ。ここは、関西。
 使われているのが標準語だろうが、大阪弁だろうが、耳慣れないのは同じ。
 あたしは、一瞬で、自分が違う場所にいるのだと悟った。
「おお!美人さん連れて、どうした!同伴出勤かぁ⁉」
「支店長、完全にセクハラ発言ですよ」
 苦笑いしながら、早川は流す。
 どうやら、そう言いながらこちらにやってきた、にこやかな壮年の男性が支店長のようだ。
「すまん、すまん。男だらけだから、新鮮なもんでね」
 あたしは、その言葉に部屋を見回す。
 先に出社しているのは、老若はあるが、すべて男性だ。
「――で、そちらは?」
 支店長に代わり、あたしを見やって、早川に尋ねてきたのは、眼鏡をかけた同じくらいの世代の男性。
 早川は、チラリと見下ろす。
 あたしは、一歩前に出て、頭を下げた。

「申し遅れました。本社から、一か月、経理部の指導に参りました、杉崎です。よろしくお願いいたします」

 すると、ほう、と、ため息が漏れた。

 ――……え。
 何?何か、マズかった??

 あたしは、ビクリとして顔を上げ、早川を見上げると、苦笑いで返された。
「……早川?」
「気にするな」
「早川!本社は、こんな美人さんが揃ってるんか⁉」

 ――は?

 目を丸くしていると、早川は、あたしを隠すように、前に出た。
「だから!セクハラ事案になりますってば!監査部できたの、みなさんだって、ご存じでしょうが!」
「ああー、でも、アレ、余程じゃなきゃ、動かないんじゃない?」
「支店長!」
 あせる早川を横目に、あたしは、まじまじと彼らを見た。
 ――工場とは、別のユルさを感じ、口元が上がった。

 そうこうしている内に、再びドアが開き、今度は数人の若い男女三人が入って来た。
「お、おはようございます!こちらに異動になりました、沢です!」
 緊張しながら、入り口で直立不動で頭を下げる彼らを、あたしはポカンと見やってしまった。

 ――コレ、もしかして、支社に異動した人間、全員来るの?

 チラリと部屋の広さを見やり、不安になってしまった。
 すると、更に階段の方からざわめきが聞こえる。
 ――正解だわ。
 予想通り、その後二十人ほどの異動者が現れ、あっという間に、部屋は人であふれかえってしまった。
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