Runaway Love
 そんな風に、その週を終える。
 もう、来週は最終週。新人だけで、ひと通りさせるつもりだ。
 そう古川主任に告げると、うなづいて返された。
「そうですね。――いつまでも、あなたがフォローできる訳ではないですし。あと、月締めのやり方だけ、きちんと教えてもらえるでしょうか。最終日は、半日で引っ越し準備もあるでしょう」
 あたしは、その言葉にうなづく。
 金曜日、ちょうど月末で月締め作業もピークだ。
 そして、翌日には、大阪支社の開業式典。
 ――まあ、そんな大仰なものではないけれど、あたしも顔を出すように言われてしまった。
 なので、それが終わったら、引っ越し業者に荷物を預けて、古川主任に鍵を返す。
 そして、ホテルに泊まり、翌朝、あたしは新幹線を乗り継いで帰宅する予定だ。
 ギリギリまで部屋にいようかと思ったが、休日で、古川主任に鍵を返せないし、何より、すぐに清掃業者が入る仕組みになっている。
 ホテルは福利厚生扱いで取れるらしかったので、甘える事にした。

 そして――それは、早川も一緒のスケジュールだ。

 あたしは、そのまま作業を続け、定時に終了できた。

 マンションに帰ると、すぐに、スマホをチェック。
 先日、岡くんに頼んでから、毎日帰宅時間に合わせて、異常が無いかメッセージが入っている。
 マメだとは思うが、今はそれがありがたい。

 ――今のところ、異常は無いです。

 ――ただ、テルの機嫌が少し悪いです。また、悪いクセが出てきてるみたいで。

 あたしは、スマホを見つめ、苦笑いだ。
 テルくんは、結構なヤキモチ妬きだそうで、奈津美とよくケンカするらしい。
 それは――あたしから見れば、大事に想われているようだが。
 縛られる事を嫌がるタイプの奈津美には、ガマンできないようだ。

 ――……でも……それでも、二人でいる事を選んだのだ。

 すると、またスマホが振動した。
 見やれば、久し振りの藤沢さんの写メ入りメッセージ。
 あたしは、この前の柴田さんの連絡先の件でお礼を言っていなかった事を思い出し、メッセージを返した。

 ――この前はありがとう。とても助かったわ。

 どうにか文を考え、それだけ送ると、すぐにスタンプが返ってくる。

 ――お役に立って何よりです!

 彼女らしい、明るい雰囲気のそれに、思わず笑みがこぼれた。
 それから、再来週には本社に帰る旨を伝えると、また、即返信。
 あれよあれよという間に、来月末辺りに食事しようという事に決まってしまった。
 あたしは、昔では考えられない、そんなやり取りに胸を熱くする。
 ――そのためにも……懸案事項は早く片付けなきゃ。
 気合いを入れ直し、夕飯の支度を始めた。
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