Runaway Love
 ようやく一人になれ、あたしは、その場に座り込んだ。
 熱は下がったはずなのに、顔が熱い。
 あたしは、それを振り切るように頭をブンブン振ると、瞬間、めまいが起こる。
 そのまま、床に敷いたラグに横たわり、息を吐いた。
 出勤時間が迫っているが、支度する気力がわかない。

 ――……もう、ヤダ……。
 お願いだから、もう、そっとしておいて。
 あたしは、誰も好きになりたくないし、好きにならない。

 ――期待すれば、裏切られる。

 奈津美に会った男は、みんな、同じ。
 ――早川も、いずれ、気づくだろう。
 ――あたしよりも、奈津美の方が良いって。


 奈津美は、照行くんと付き合う前から、男の知り合いとトラブルが絶えなかった。
 家まで押しかけてきたヤツ等を追い返すのに、どれだけキツい思いをしたか。
 ストーカーなんて、日常茶飯事。

 ――そっちが、誘ったんだろうが!

 そんな捨て台詞で、去って行けば、まだ良い方。
 時には、警察沙汰になった事だってあった。
 たぶん、いろんなところで、かなり叩かれているだろう。
 けれど、奈津美は、自分を変える事はなく。

 ――そんな強さ、持って欲しくはなかったのに。

 結婚しても、きっと、奈津美は変わらない。

 そんな奈津美に――あたしは、一生振り回されるんだろう。

 自分の将来が見えてしまった気がして、あたしは、その場に顔を伏せた。


 どうにか体を起こして、いつもの数倍の時間をかけて支度をし、いつもより二十分遅れで家を出た。
 さすがに、早川も一旦家に帰らなければならなかったから、待っている様子はない。
 もつれそうになる足をゆっくりと動かし、会社に着いたのは始業十分前。
 いつものようにロッカーにカバンを入れ、貴重品バッグを持ち、エレベーターに乗り込む。
 ありがたい事に、誰も乗ってこなかったので、あたしは背中を壁に預ける。
 一応、薬は持っているので、ダメそうなら飲めばいいし、最悪、医務室に駆け込んで、また先生に出してもらおう。
 五階までノンストップで到着。
 ドアが開くのを待って、足を進める。
 奥にある経理部の部屋のドアを開けた途端、全員の視線がこちらに向けられた。

「お……おはようございます……」

「杉崎主任ー!大丈夫ですかー!!?」

 外山さんが、素早くイスから立ち上がって、あたしに駆け寄る。
「ありがとう。一応、熱は下がったから」
「ホントですね⁉無理しないでくださいよ⁉」
「わかってるわ」
 あたしは、彼女にうなづくと、部長のところまで直接向かう。
「おはようございます。昨日は、申し訳ありませんでした」
 そう言って頭を下げると、部長は苦笑いぎみに、首を振った。
「いや、午前中まで普通どおりだったからね。急に倒れたし、高熱だったから、全員、ビックリしただけ」
「すみません……」
「そうそう。下手に触れないから、中山先生に来てもらって、担架で医務室まで運んでさ」
 大野さんが、そう言って、野口くんとうなづき合う。
「……申し訳ありません……」
 ――ああ、結構な騒ぎになってた訳ね……。
 あたしは、身体を縮ませ、頭を下げた。
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