りつとるね
その時だった。
律が私の両肩を押さえて覆いかぶさってきた。
「だまれ」
月明かりを背にしてよく見えないけれど、怒ったような眼差しがこちらを見ている。
見たことのない律の表情だ。ドキッ……

私の覚悟を促すように、その顔がゆっくりと近づいた。
魔法にかかったように目を閉じる。――と、唇に律の唇がやさしく重なった。
それから、思ったよりもたくましい律の腕に抱き込まれ、低い声を耳元で聞いた。
「これでいいだろ。これがおまえのファーストキスだ」
(……私はてろんと溶けた)

彼が身を離して私の顔をのぞきこもうとする。
恥ずかしいから、離されまいとシャツにしがみついたら「フッ」と笑われた。だけど、背中に回った律の腕はやさしかった。

くやしいけど、翻弄された私の負けだ。
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