ミューズな彼女は俺様医師に甘く奏でられる
 この展開を予想していなかった訳じゃないが、深い口付けにすぐ降参してしまう。

「はっ、慎太郎、お願、い。少し、待って」

「おいおい、煽ったのは桜だろ? もっとキスをさせろよ」

 反らした顔を戻され、キスが再開する。息継ぎの間を狙い、舌をいれられた。逃げようとする私の舌をすぐさま捉えて絡める。

 ピチャピチャ、水音を伴う舌のダンスに脳が痺れてしまう。

「桜、いい子だから。ね?」

 いい子と言われると応じたくなり、口を開く。

「っん、は、はぁ、こんなキス、嫌ぁ」

「嘘つくな、嫌じゃないくせに」

 私からも絡めて吸うよう催促する。

「でも腕が治るまでしないって言った」

「だから誘ったのは桜じゃないか。女性に恥をかかせちゃ駄目だろう?」

 私の泣き言を慎太郎は意地悪に眺め、容赦なく追い立てる。

 シーツを握り締めていたが解かれて、手を繋ぐ。

「こういう、キスーー」

「ん?」

「恥をかかせない為なら、慎太郎は誰とでもするの?」

 こういう場面での経験値の差は明らかだった。私は翻弄されてばかりで何だか悔しい。

「馬鹿、するはずないだろうが。桜とだけだ。こういう事をするのは」

「ふ、んっーーならいい」

 そうか、私とだけなら熱心に応えたい、他の女性とはしたくならないように。

「んっ、ふぅ、はぁっ」

 照れを捨てて慎太郎の舌の動きを真似た。

 するとーー。

「す、ストップ! ストップ! 桜! これ以上はやばい、やめよう。な?」

「へ?」

 慎太郎がズサササッと効果音付きでドア付近まで後退した。

 彼は呼吸を乱し、頭を振る。

「先生はあなたの可能性が怖いですよ。恐ろしいまでの吸収力ですね」

 敬語になる慎太郎。

「はぁ?」

「桜、先生は仕事に戻りますよ。ケーキやお菓子をたらふく食べて眠りなさい。いいですね? 勤勉なあなたの事だから予習復習をしたいでしょうが不要ですから。絶対にするな、してくれるなよ!」

 俺だって久し振りなんだ! そう叫んで病室を飛び出す。

 丁度タイミング良く院内放送が流れ、医院長室へ呼び出されていた。
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