ミューズな彼女は俺様医師に甘く奏でられる
 エミリーの青い瞳は軽蔑を隠さない。

「デジタル・デトックスだか知らないけど、あなたは自分が置かれている状況を把握しなさい」

 顎で正面に座るよう指示され、従う。タブレット端末に表示される意見へ目を通す。匿名掲示板というこもあり、言葉を選ばない投稿が数々されていた。

『ヴァイオリニストのくせに写真集出したり、ファッションショーに出たりして本業を疎かにしていた罰』

『結局の所、お嬢様の手慰み。キレイな顔と伊集院家の力がなければ有名になれなかった』

『外科医と付き合うのが計算高い。病院で治療しないで婚活していたんだ。がっかり』

 様々な捉え方の中で次の発言が胸へ突き刺さる。

『怪我したらさっさとお金持ちと再婚して、引退した母親と同じじゃん。所詮、蛙の子は蛙』

 母を引き合いに出され、吐き気を堪らえた。

「腕を痛めて入院した時点では同情の声もあったのに、入院先のドクターとデートなんかするから世間はアンチ化しちゃった。で、どうしたい?」

「……慎太郎とは別れない。失ったファンは演奏で取り戻すよ」

「その演奏が出来る舞台があればいいけど。ドクターの手垢がついたミューズにどれだけの需要があるのやら。まず青年誌の表紙のオファーは無くなった。それからアパレルブランドから報道に対して公式の見解を発表するようにとお達しがきたわ」

「そ、そんな。犯罪をした訳じゃないのに」

「でもって、あなたの愛しのドクターも大変よ? 患者に手を出したって懲罰対象。病院としてもイメージダウンだもの、当然の処置ね」

 私との事が原因で、慎太郎のキャリアが閉ざされるなんて嫌だ。目の前が真っ暗になる。

「私はいいから慎太郎を助けて、お願い」

「嫌よーーと断りたいものの、WIN-WINになれる方法があるのよ! 知りたい? 知りたいよね? 私だって無職になりたくないし、一生懸命考えてみたわ」
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