ミューズな彼女は俺様医師に甘く奏でられる
「ーーそう、エミリーの調べた通りなんだ。慎太郎はスキャンダルで医師としてのキャリアが危ぶまれてる。だから伊集院に助けて貰おうとして」

「ち、違う! 俺は桜が」

 言い訳など聞きたくない。

「私が何? この人達に関わるのがどんなに嫌か話したよね? なのに私の為に伊集院と話をしていたって言う? 実際は保身でしょ? 慎太郎が医者であり続ける為に伊集院の協力を仰いでる!」

「早まるな、桜は勘違いしているよ! 真田君は本物のヴァイオリニストとして活動させたいと言って」

 義父がフォローする。が、それが火に油を注ぐ。

「は、本物って? 今の私、偽物? 伊集院さんは母と結婚しただけで、私の面倒なんてみなくていいの。放っておいて!」

「あなたはエミリーのいいように扱われているだけだ。落ち着いて、話をしよう?」

 抱き締めてこようとするのが、丸め込まれそうに感じてしまい拒絶した。
 粘り強く説得されるほど、嫌気が差す。

「エミリーとはビジネスパートナー、割り切った関係よ。慎太郎みたく私の感情を弄んだりしない。エミリーのせいにしないで、あなたってーー最低、大嫌い!」

 そこまで告げ、席を立つ。涙も痛みもなく、ただただ虚しい。

 荷物とヴァイオリンを抱え、雨のベリが丘へ飛び出した。
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