ミューズな彼女は俺様医師に甘く奏でられる
 私から無言で慎太郎へくっつく。

 言いたい事は沢山あるし、きっと解かなきゃならない誤解も沢山ある。

 それでもこうして側にいられたら、もうどうでも良くなって。

 どうでも良いと言っても投げやりな気持ちじゃない。心が温かい、心地良いんだ。

「私、私ね、あなたが好きーー慎太郎が好きなの」

 涙と飾らない本音が溢れてくる。

「俺を好きになってくれたの? 嬉しい」

「うん、たぶん」

「はは、たぶんか。それでもいいや、俺だってずっと前から好きだったのを最近自覚したんだ」

「ずっと前?」

「あぁ、桜に救われた事がある。ありがとう」

 慎太郎の感謝の理由はよく分からないが、私もお礼を言いたい。

「私こそ探してくれて、ありがとう。見つけてくれてありがとう」

 それから願いを告げたい。

「寂しかった、心細かった。お願い、もう一人にしないで!」

 これ以上、私達に多くの言葉は要らなかった。

 慎太郎は膝裏へ手を差し込み、私を抱き上げる。

 ゆっくり一段一段、私は大人の階段をのぼっていく。
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