ミューズな彼女は俺様医師に甘く奏でられる

9.奇跡



 ピッピッピッ、電子音に誘われた睫毛が震えた。見上げた天井は病室で、瞬きを繰り返すと夢と現実が切り離されていく。

「伊集院さん? 気がつかれましたか? 真田先生を呼んで!」

 看護師の呼びかけの数十秒後、ドアを突き破るようにして慎太郎がやってきた。

「真田先生! お静かにお願いします、ここ病室ですよ!」

「うるせぇ! こんな所にドアがある方が悪いんだろ!」

 また無茶苦茶を言っている。クスクス笑うとお腹が引き攣った。

「大丈夫か? ここが何処か分かる?」

 白衣の慎太郎が覗き込む。

「……慎太郎が居るから……天国かしら?」

「バカ言え! 俺が手術したんだぞ? 天国なんか行かせるかよ! はぁー、良かった、本当に良かった」

 へなへなと力が抜けて、その場に蹲る。私は彼がしてくれるよう頭を撫でようとし、薬指の指輪を発見した。

「あー! 桜ちゃん、意識が戻ったんだ!」

「佐々木先生もお静かに!」

「こんな所にドアがある方がおかしいんだってば!」

 続いて佐々木医師も入ってきて、屈む慎太郎を蹴る。慎太郎の背中はドアじゃない。

「ってぇ、ちょっと痛いじゃないですか! 何するんですか?」

「桜ちゃん、慎太郎ってば君が目を覚ますまで毎日メソメソしちゃってさ、この俺が第一助手を勤めた完璧なオペだったのに!」

 嫌がる慎太郎と肩を組み、佐々木医師は団結を主張する。

「毎日って、私、そんなに?」

 身体を起こすのを手伝って貰い、窓の外を眺めてみた。一面の桜色が広がっていた。
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