片恋 好きな人には好きな人がいる


「そっかぁ、旭も片想いなんだね。辛いよねぇ、僕もわかるかな。その気持…」


そう呟く一輝の横顔を見つめた。


へ?今なんて?


一輝が誰かに片想いしてんのか?

そんなことあるのかよ。

今までそんな話したことなかったから知らなかった。


「え?一輝って好きな奴いるの!?」


意外な事実に動揺して驚いて問いかけると、あー、うん、まあ、などと歯切れの悪い返事をした後。


「…僕の気持ちに全然、気づいてくれないんだよね。その人」と少し悲しそうな表情を見せた一輝は薄く唇を噛んだ。


一輝にこんな顔をさせる相手とは一体どんな人物なんだろう。


「モテモテの一輝から好かれるとかすげぇなそいつ。でも、そんな鈍感な奴いるのかねぇ」


俺の言葉に一輝は困ったような顔で話を続けた。


「うーん、それがいるんだよ。こんなに好きになるつもりなかったのに、どんどん好きになってくから困ってるんだよ。ほんと、その人は自分に向けられた好意には疎いみたいで、全然気づかないから」


そう言った瞬間、ふわっと風が流れて髪が揺れたかと思うと、一輝が少し寂しそうに笑った。


「なんか意外だな。一輝がそんなに好きになる奴がいるって」


素直に思ったことを口にすると、そう?と返事をしながらまた困ったように笑ってる。


こいつがこんな風になるなんて珍しい。


よっぽど想ってるんだろうな……。


「まぁ、早くそいつが気づいてくれるといいな!」


そう言うと、一輝は一瞬目を見開いて、ありがとうと言ったあと冗談っぽく笑って言った。


「もし、僕が失恋したら、旭、慰めてくれる?」


「あぁ、考えとく」


「何だよそれっ!旭の薄情者〜」


「うるせぇ!で、好きな奴って誰なんだ?」


うーん、と考える素振りをした一輝は人差し指を立てて口元に当てると、しーっ、と笑ってみせた。


「内緒!コンビニ行いこ、旭!」


俺の腕をぐいぐい引いて走り出した。


「ちょっ、ちょっと!待てって!なんだよ!気になるだろ!言えよ!一輝!おい!教えろって!」


「あはは!ほら行くよ!教えて欲しかったら頑張って聞き出してみなよ」


楽しそうに笑う一輝を見て、なんだよそれ、と思いながらもつられて笑ってしまう。

汗ばむ季節、俺たちの笑い声が暑い夏に溶けていった。
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