友達が結構重たいやつだった
 卒業式の日。研究室の仲間達と来ていた居酒屋で、俺は愛海が発した言葉の意味を理解できずに戸惑った。

「来週引っ越しするのに、入社式が本社であるから一度こっちに戻ってこなきゃいけないんだよ。本当面倒臭い」

「え?引っ越し?」

「ん?あれ?長野の研究所で研修だって言わなかったっけ?で、研究職の私はしばらくそこで仕事を覚えることになるから‥‥少なくとも数年は長野なのかな?」

 研修の話は聞いていたが引っ越しなんて聞いてない。長野に行くのはせいぜい数ヵ月の話だと思っていた。

 愛海の就職が決まってから、俺は悩みに悩んで愛海の会社の親会社に就職することにした。

 元々化粧品の開発に興味があったわけではない。大企業で採用枠がそこそこ大きかったおかげでもらえたその内定は、出世しなければたいした給与でもなく、愛海がいないとなればなんの魅力もない。

 だが関連会社で同じ研究職なら、技術習得を目的とした出向等の可能性もゼロではないし、俺の頑張り次第で他にも愛海と繋がる方法があるかもしれない。少なくとも、同じ業界にいれば完全に縁が切れることだけは防げるはずだ。

 俺の実家は繊維系の製造販売をしている会社を経営していて、親は兄貴に会社を継がせて俺には製造分野を任せたいと考えていたらしく、わりと放任されてきたこれまでと違って今回の就職に関しては大反対されてしまった。

 親の反対を押しきってまで愛海のいない化粧品会社に就職したのは、会おうと思えばすぐに会えると思ったからなのに‥‥

 長野って‥‥場所にもよるが車で片道3~4時間か?平日は絶対に会えないし、休みの日だって友達の俺が頻繁に会いにいく理由なんてそうあるものではない。

 会えるのはせいぜい月に一度あればいい方だろうか‥‥そんなの無理だ。週に一度でも少ないと感じるのに、それ以上会えないとなれば、愛海が他の男に奪われる危険性が高まり過ぎて気が狂う。

 せめて俺が愛海の彼氏だったら会いにいく理由はただ『会いたい』で十分だし、他の男に奪われる危険も激減するのに‥‥

 この7年、何度となく俺が愛海に伝えた『好き』は、全部『友達の好き』として受け流された。一体どうしたら俺の想いを愛海に伝えることができるのか‥‥

 絶対に冗談だとは思われたくない。愛海を外に連れ出し、俺の本気がちゃんと伝わるよう丁寧に言葉を紡ぐ。好きが駄目ならもうこれしかない。

「愛海、俺と結婚しよう」
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