友達が結構重たいやつだった

キス

 龍二が彼氏だったら‥‥と想像したことが一度もないと言ったら嘘になる。いや、正直に言おう。何度も想像した。

 私がその想像を現実にしようとしなかった理由は、龍二と離れたくなかったから。

 龍二は彼女を作っても1ヶ月もしない内に別れることを繰り返していた。もし私達が友達をやめて付き合い始めたら、一時的には今より近い関係になれるかもしれないけど、いずれお別れすることになってしまう。

 もしかしたらまた友達に戻れるかもしれないけど、もしそうじゃなかったら‥‥その可能性が私の歯止めとなって、友達のままであり続けることを望むようになった。

 龍二が言う『今のままではいられなくなる』とは、どういう意味なんだろう。何がきっかけになったのかは知らないが、龍二がこれまでの関係を壊そうとしているのは確かだ。そして壊さなくても今のままではいられないらしい。

 なんで!?どうして!?私は龍二と友達のままで良かったのに‥‥

 私がそんなことを考えてる間にも、龍二がすぐそこまで迫っていた。そして、真剣な表情を崩すことなく、甘く囁く‥‥

「愛海‥‥好きだよ」

 ああ‥‥この『好き』は確かに『友達の好き』じゃない。龍二は本気なんだ。本当に私のことが『好き』なんだ。だから、鈍感な私のためにこれまでこの『好き』を隠し通してくれてたのか‥‥

 そうか‥‥龍二がもう『好き』を隠しておけなくなったから『今のままではいられない』ってことなんだ。

 龍二の本当の気持ちを知った上でこれまで通りにだなんて器用なこと、私にできるわけがない。だったら私も覚悟を決めなければいけないだろう。

「わかった。キス‥‥してみよう」

 意を決して龍二との距離を縮める。龍二の胸に手を置いてつま先立ちで顔を近づける。龍二の薄い唇で視界がいっぱいになった。龍二の唇はやっぱりなんかエロい。‥‥駄目、余計なことを考えて誤魔化していい場面じゃない。目を閉じて、恐る恐る‥‥キスをした。

 ほんの数秒‥‥目を開けて距離をとり、龍二を見上げる。

「え?どうして‥‥?」

 泣きそうな顔をした龍二がそこにいた。

「ごめん。違うんだ。本当、ただ嬉しくて‥‥」

 私とのキスが泣きそうになるほど嬉しい‥‥?少なくとも私と龍二の感想には思った以上に差がありそうだ。

 嫌悪感や違和感はなかった。ドキドキはしたけど、あえて言葉にするなら‥‥緊張感?だと思う。これってやっぱり、私の『好き』は『友達の好き』だったってことなんだろうか?
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