かりそめ婚のはずなのに、旦那様が甘すぎて困ります ~せっかちな社長は、最短ルートで最愛を囲う~

どうしてここに?

「望晴!」

 後ろから駆け寄ってきた誰かに抱きしめられた。
 振り向いた望晴は目を見開く。

「拓斗、さん。どうしてここに……?」

 全力で走ってきたようで、荒い息をついて、汗ばんでいる彼は、望晴の問いかけに、目を尖らせた。

「……っ……ハァハァ……君が……いなく、なるから……!」
「いなくなる?」

 そう言われても、望晴がマンションを出てからそんなに時間は経っていない。

(それなのになぜ出ていったのがわかったの?)

 彼女の疑問が顔に出ていたようで、拓斗が補足してくれた。

「……こん、しぇるじゅ、が……ハァ……連絡、してきたんだ……」

 よほど走ったのか、呼吸が苦しそうだ。拓斗は望晴の肩に額をつけて、息を整えようとしている。

『ようやく着いたか。ちゃんと話し合えよ』

 拓斗が来るのをわかっていたのか、啓介は一方的に言い、電話を切った。
 どうやら、拓斗がたどり着くまで時間稼ぎをしていたようだ。

(どういうこと?)

 コンシェルジュが拓斗に連絡したのはわかったが、だからといって、なぜ彼がここに来たのかわからず、望晴は混乱した。

「……なぜ、電話に出ない!? っていうか、あの離婚届はなんだ? 僕が嫌になったのか?」

 ようやく息が収まった拓斗が矢継ぎ早に聞いてくる。
 でも、望晴にとっては不可解なことばかりだった。

「電話?」

 とりあえず、一番目の質問に、スマートフォンを見ると、拓斗から何件も電話が来ていた。
 カバンに入れて歩いていたので、まったく気づかなかった。

「ごめんなさい。気がついてませんでした。でも、嫌になって離婚したいのは拓斗さんのほうでしょう?」

 悲しい気持ちで望晴は言った。でも、それを聞いた拓斗が驚いた顔をする。

「どうして僕が離婚なんて……!」
「だって、離婚届を書いていたじゃないですか」
「あれは入籍したときに用意すると言ってたものだ。それでも、僕は離婚したくないから、君に渡せなくて、ずっと持っていたんだ」
「離婚したくない? でも、水樹社長は? 口説いてるんでしょう? いいパートナーだって」
「水樹社長? どうして知ってるんだ? 確かに口説いている最中だが」

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