かりそめ婚のはずなのに、旦那様が甘すぎて困ります ~せっかちな社長は、最短ルートで最愛を囲う~
 ***


 そんなある日、土曜日なのに拓斗がやってきた。しかも、めずらしく困り顔だ。
 休日だからか、スーツでなく私服だった。だけど、望晴のコーディネートしたものではない。

「いらっしゃいませ」

 笑顔で迎えた望晴を見て、彼はためらいがちに言った。

「頼みがあるんだが……」

 いつになく歯切れの悪い拓斗の様子に望晴は首を傾げた。

「はい、なんでしょう? 私でお役に立てるなら――」
「家に来て、コーディネートをやり直してほしいんだ」
「はい?」

 食い気味に告げられた言葉に、望晴の思考がついていけなかった。
 目をパチパチさせて、聞き返す。

「君にコーディネートしてもらった服はセットにして保管していたのに、新しい家政婦が勝手に服をバラバラにして収納してしまったんだ」
「セットに? 着回ししてなかったんですか?」
「コーディネートを崩すと、甲斐にまたダサいだのセンスないだの言われてうるさいからな」

 そう言われてみれば、来たときから気になっていたのだが、今日の拓斗の恰好はちぐはぐだった。
 太い白黒ストライプのセーターになぜか緑のチェックのボトムを合わせていて、よりによってなぜそれを選んだのかと望晴は疑問に思っていた。

「それでは、今日は由井様がお選びになった服なんですか?」
「あぁ、目についたものを着てきたんだが、なにか変か?」

 大真面目に聞いてくる拓斗に、残念感が漂う。

(本当にセンスがないんだわ)

 ふと目があった啓介が笑いをこらえていた。
 変だとも言えず、望晴はアドバイスした。

「そうですね。中の白シャツの襟と裾を出したら、もう少しバランスが取れるかもしれませんね」
「こうか?」

 拓斗は素直にシャツの裾を出した。
 柄と柄の間に、緩衝材のように白が入って、少しはお洒落感が出る。同じブランドの服なので、よっぽどのことがないと喧嘩しないはずだったが、彼のコーディネートは想定外だった。
 ほっとした望晴は、先ほどの拓斗の頼みを思い出した。

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