本日、初恋の幼なじみと初夜を迎えます。~国際弁護士は滾る熱情で生真面目妻を陥落させる~
「今となっては昔のことだわ。赤い糸なんて幻想なんだって、いいかげん現実を見るべきだってわかったの。どうせ叶わないんだったら、圭吾お兄ちゃんに教えてほしいの」
「俺に……」

 彼が戸惑っていることは伝わってきたが、諦めきれず食い下がる。

「昔は色々なこと教えてくれたでしょう? 算数も英語も、逆上がりも」
「それとこれとは」
「一緒よ。私もう嫌なの、理想だと思い込んでいた幻想にとらわれるのは。私に初めて〝も〟教えてよ、圭吾お兄ちゃん」

 彼は押し黙った。

 ああ、やっぱり。きっと『残念だけど』と断られるのだ。これまでの経験則からいくと〝良心的な〟男性からは『赤い糸の相手が見つかるといいね』というお祈りメールじみた文言をいただくのだ。

「わかった」

 はっきりとした口調に強い意思を感じた。
 続く言葉を予測し、手をぐっと握り締める。

「進めようか」

 ほらやっぱり。

 ――え?

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