前世恋人だった副社長が、甘すぎる



彼は私を見下ろしたまま、その顔に笑みを浮かべる。

切なげで、泣いてしまいそうな脆い笑み。

瞳がぶつかったその一瞬が、永遠のようにも思えた。

だけどふと気がついた。彼がマルクだなんてのは、きっと私の妄想だ。

そもそも、私がクリスチーヌなんてのも妄想に違いない。私は何かの病気なんだろう。

それよりも、今は業務だ。



「こちらの宿泊届けに、お名前とご連絡先をお願いします」


差し出した芳名帳に、彼は黙ってペンを取り上げ、綺麗な字で名前を書いた。


黒崎(くろさき) 怜士(れいじ)


黒崎って……まさか、副社長!?

だけど、黒崎なんて名字は珍しいものでもない。

私はまじまじと黒崎怜士を見ていた。

そして、彼を見ていると不覚にもまた、マルクを思い出してしまうのだった。


< 13 / 258 >

この作品をシェア

pagetop