前世恋人だった副社長が、甘すぎる
彼は私を見下ろしたまま、その顔に笑みを浮かべる。
切なげで、泣いてしまいそうな脆い笑み。
瞳がぶつかったその一瞬が、永遠のようにも思えた。
だけどふと気がついた。彼がマルクだなんてのは、きっと私の妄想だ。
そもそも、私がクリスチーヌなんてのも妄想に違いない。私は何かの病気なんだろう。
それよりも、今は業務だ。
「こちらの宿泊届けに、お名前とご連絡先をお願いします」
差し出した芳名帳に、彼は黙ってペンを取り上げ、綺麗な字で名前を書いた。
『黒崎 怜士』
黒崎って……まさか、副社長!?
だけど、黒崎なんて名字は珍しいものでもない。
私はまじまじと黒崎怜士を見ていた。
そして、彼を見ていると不覚にもまた、マルクを思い出してしまうのだった。