先生とボクの流行らない恋愛論
「先生、今日も書かないんですか?」

やっと雪の降りやんだ外を、冷気が入るのを良しとするように開け放った窓からボーッと見ている先生の肩に毛布を掛ける。

「こういう日があってもいいわよね」

書かないことではないだろう。

「たまの雪ですか?」
「そう」

彼女の視線の先には、雪が彩った狭い道路と隣の家の庭がある。

ここは恋愛小説作家の彼女、富樫ケイコ先生のアパートの一室で、ボクは出版担当者の国見ショウ。

「こういう日…みたいなのが書きたいけど…国見クン的には嫌でしょ?」
「たくさんあるもの…流れに寄せて乗って書くのではないってことですか?」
「そう。ここで国見クンには通じても、読まれないと…でしょ?」
「仕事としてはそうですね。本好きなボク個人としては、こういう日みたいなのは大歓迎ですけど」
「けど…芥川賞やなんかを目指す作品でもない、読者が手軽に何冊も一度に読めるロマンス小説…」
「分かっていても、流行りが顕著過ぎてつまらないんですね?」
「国見クンが言っちゃいけないんじゃない?」
「ここでだからいいです。ココア入れます」
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